怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

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 「私は大熊の師匠ですよ。代わりに話をして何が悪いんですか、刑事さん」佐藤の刺々しい口調がさらに鋭さを増してきた。  「今は大熊さんに質問をしてるんです。佐藤さんに答えてほしい時にはこちらから佐藤さんを指名しますから、今は少し発言をお控え願えませんかね?」  「ほう、私はしゃべっちゃいけないとでも言うんですか? じゃあもう何も話すことはありませんな。私たちは3人とも無実です。だからこれでもうお引き取りを……」  「わかりました、佐藤さん。それならば、あともう一つだけ佐藤さんに聞きたいことがあるんですけどね」海老名が苛立ちながら続ける。「ある喫煙者と訴訟を抱えてる件ですよ。あなたが理事を務めるタバコ撲滅学会の会員が、同じマンションの全く離れた部屋の住人が喫煙したせいで、受動喫煙症になったとか。それでその喫煙者の住人と裁判になってますね? 一審では敗訴して控訴してますが、まだ訴訟を続ける気ですか?」  「当たり前じゃないですか。患者さんが受動喫煙症にかかったのは事実ですからね。あの喫煙者もたちが悪いですよ。色々と馬鹿げた難癖を付けて、自分を正当化したがってるし」  「でも佐藤さん、その受動喫煙症の患者とやらを、ちゃんと診察しないで診断書を書いたことで、医師法違反の嫌疑がかかってるんですよね? しかもその事実を認めてる」  「そ、それは……別に認めたわけではありません」佐藤が狼狽しながら言う。「ただ向こうの弁護士も卑劣な手を使ってきましてね。それに乗せられてしまったんですよ。向こうも相当手ごわいですけど、正義はこちら側にあります。最後は必ず我々が勝訴しますから。ところでこの裁判があの爺さんが殺されたことと、どういう関係があるんですか? 訴訟を抱えてる人間は必ず人を殺してるはずだ、とでも言いたいんですかな?」  「そんなことは一言も言ってません。ただあなたには医師法違反の疑いがあるんですよね? そのことを確認したかっただけです」海老名はそう言いながら、とにかく落ち着け、と自分自身に心の中で言い続けていた。  「医師法違反に問われてるから、私があの爺さんを殺したんですか? あれは民事裁判ですよ、刑事裁判じゃないんですから。とにかく私たちは竹屋の爺さんを殺した犯人じゃありません。もうこれ以上お話を続けても意味がありませんな。お引き取りください」  「佐藤さん、もう少し冷静になって……」  「もうお引き取りください!」佐藤はきっぱりと大声で言い放った。「今すぐ!」
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