怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

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 その翌朝の捜査会議で、まず海老名と同行した根岸が、前日の夜の聞き込み結果を報告した。  「そうですか。そんなに警察に対して非協力的な態度だったんですか」河北署長が感想を述べた。「噂には聞いてましたが、かなり威圧的な性格ですね。そこまで大きな態度に出られると、ますます犯人としての可能性も濃厚になってきます。この佐藤も充分怪しいですが、それよりも大熊勇介ですね。彼の周りで4人もの方が亡くなってるんですか。父親は病死、母親は自殺……この大熊の周辺についても、もっと入念に調べてみましょう」  「ただ大熊は自分の周りで次々と人が死んでいくことに対して、かなり戸惑った様子でした」根岸が言う。「演技ならかなり厄介ですが、恐らくその可能性は低いんじゃないかと思います」  「佐藤節夫か大熊勇介か……それにしても佐藤は小竹殺害の一報を聞いても、慌てて飛んで帰らずにゆっくりしてたんですか。これは何を意味するんでしょうかね? もし佐藤が犯人だとしたら、夜中に小竹を殺害しに一度東京へ戻った後、また新潟と東京を往復するための時間稼ぎでしょうか? 東京から新潟まで新幹線で2時間ほどですからね。新潟県警はどう言ってきてるんですか?」  「ホテルに問い合わせたところ、佐藤がその晩ホテルに宿泊したことは事実だそうです」本庁の別の刑事がそう言った。「翌朝9時過ぎにチェックアウトしたことも確認が取れてます。ただこのホテル、フロントと出入り口が離れてまして、しかも外出する時にも部屋の鍵をフロントに預けなくていいそうです。一度チェックインしてしまえばフロントを通ることなく、出入り口を24時間自由に出入りできるそうで、つまりチェックインしてから翌日にチェックアウトするまでの足取りまではつかめない、とのことです」  「目撃証言の方はどうなってます?」  「タバコ撲滅学会新潟支部の話では、佐藤は講演会のあと、地元の会員たちと飲食店で食事して、夜8時ごろにホテルへタクシーで戻ったそうです。佐藤の証言と一致しますね」  「なるほど、問題は夜8時から翌朝9時までの空白の時間ですか。その夜の最終の新幹線で東京に一度戻り、翌朝の始発の新幹線で新潟へまた戻る時間は、充分にあるでしょう。佐藤による犯行も大いに考えられます。仮に佐藤が直接殺害したわけではないにしても、あれだけ朝ゆっくりしてたのを考えると、事件そのものを予め知ってたとも思えますね。何しろ小竹を憎んでたわけですから。そこのところをもう少し詳しく調べてみましょうか」
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