怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

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 次に小竹清の義理の親戚・辻浩太に対する聞き込み結果について。辻は犯行時刻と思われる時間まで、夜通し自宅で酒を飲んでいたとか。辻の友人も一緒だったので、アリバイが成立した。ただこの辻浩太という人物、聞き込みをしてきた本庁の刑事によると、見るからに頭が悪そうだったとか。目はうつろで、口は半開き。ヘラヘラと卑屈な愛想笑いだけが印象に残る、良く言えば誰もが呆れて怒る気もなくす、ただの憎めない阿呆。  「あの爺さんが死んだら、俺の金蔓(かねづる)どうなっちゃうんだろ? まだ借金完済できてないのに……確かにあの爺さんには怒られましたよ。もう二度と俺のところに来るなって。でもどうせまた泣き落とせば、金貸してくれることは間違いありませんからね。前にも同じこと言われたし……」  変なところだけを学習しているが、基本的には夢だけを食べて生きているような、頭の悪い阿呆だった。社会の常識すら夢に包んで、口の中に入れてしまうようなところがあるらしい。事業に失敗したばかりなのに、もう次の事業のことを考えていた。次は宇宙に関する事業を始めるとか。  「イーロン・マスクは宇宙事業を始めて、ぼろ儲けしてるんですよね? 前澤友作(まえざわゆうさく)も宇宙へ行った。これからは宇宙ですよ! この地球なんて小さい小さい。俺も宇宙へ行く!」  刑事たちの前でこんなことを言ったという話。会議室は失笑に包まれた。  「そいつ、我々が想像してた以上のバカですね」大森があきれながらつぶやいた。  「ああ。頭が完全に宇宙へ行っちまってる」隣で海老名もあきれながら言った。「あいつの頭の中では、額に汗して働いてる土木作業員も風船と同じ重さとしか思えないんだろう。どうせ宇宙では何もかもが無重力で、重さもゼロなんだし。そいつの脳味噌の重さもゼロなんだろうな」  ちなみに例のカレー屋の件も事実だったようだ。  「もう信じらんないですよ」と大森。  「こんな奴は地球から追放だ。借金はチャラにしてやるから、とっとと宇宙へ行け。二度と戻って来るな」と海老名。  この時点で辻浩太は容疑者から外れた。
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