怪しい名探偵 第6回 煙の向こう側

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 「おい、何だその言い方は」海老名が腹を立てて言う。「だいたいどうしてあんたがここにいるんだ? 警官でもあるまいし。さっさとここから出てけ!」  「私は名探偵ですぞ。せっかくこの事件を解決しようとして()せ参じたのに、出てけなんて言われるのは心外ですな」  「おい、こいつを中に入れたのは誰だ? 機動隊の人? 本庁の人?」  海老名が周りにいる刑事たちに聞いた。誰も反応なし。  「あのな、おっさん、遊びじゃないんだぞ。ホトケの前ではもっと神妙にしろよ。いいか、このホトケさんにも魂があったんだ。心があったんだ。今あんた『どうせ老い先短いジジイ』とか言ったろ? 老い先短くても、まだまだこの(じい)さんには自分自身で踏みしめて行くはずの人生が残ってたはずなんだよ。それを誰かが衣服ごと奪ってしまったんだ。あんた自身がこのホトケさんだったら、どう思う?」  「エビちゃん、今日は随分と機嫌が悪いですな。何か悪い物を食べたんですか?」  「あんたの(つら)を見たからだよ!」  確かに今日の海老名は少し感情的になりすぎているのかもしれない。生前によく世話になった人間が殺害されたからだろう。ただでさえ、この丸出には毎回うんざりさせられっぱなし。しかも今日はいつも以上に気が滅入る。  自称名探偵・丸出為夫。シャーロック・ホームズの生まれ変わりを自称するドン・キホーテ。その仕事は警察の捜査を邪魔して遊ぶこと。役に立ったことは一度もない。はっきり言って迷惑な存在。奴が姿を現わすたびに、海老名はうんざりする。何とかしてこいつを逮捕できないものか? だがこの丸出、バカなことをしてさんざん警察に迷惑をかけるくせに、警視庁本庁には顔が利く。それは色々な刑事の秘密を知っているからだ。海老名の酒気帯び運転の件まで知っている。バカを(よそお)って、実は別の意味で優秀なのかもしれない。全くわけがわからない存在。あいつはいったい何者なのか?
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