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その後のことは何も覚えていないと言う。気づいた時には、一度立ち上がった小竹が床に転倒し、呼吸もしていない状態だった。
確かに小竹を突き飛ばした感触がある。だが殺すつもりはなかった。またもや自分は人を殺してしまったみたいだ。竹屋の主人を憎んでいなかったと言えば噓になる。確証はないが、自分の本当の父親かもしれない人。北斗は呆然として突っ立ったまま、小竹清の死体を見下ろしていた。
小竹を意図せずに殺害した後で、逆に小竹に対する激しい憎しみが沸き上がった。あんたは俺が、あんたの子かもしれないことを知ってるのか? もしそうなら、なぜ今まで一度も名乗り出ようとしなかったんだ? それに母親のことで諭しに来たのは、今でも母親を愛してたからじゃないのか? そう思うと北斗は小竹を2度殺したくなってきたと言う。
ニコチンパッチを張り付け過ぎると命を落とすかもしれないことは、昔ある映画で見たから知っていたとか。1枚1枚憎しみを込めながら、老人の身体中にパッチを貼っていった。一時期禁煙しようと思って途中でやめたパッチを。あの嫌われ者の住職がいる寺に遺体を放置すれば、住職が犯人だと誰もが思うことだろう。
寺の本堂の入口に小竹の遺体を置くと、何だか小竹がただの小さな老人に思えてきた。それを見て、思わず小竹に向かってあの言葉を一度でいいから言ってみたくなった。結局死ぬまで口にできなかったあの言葉を。
父さん……
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