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「結局、北斗は本当に竹屋の親父の子供だったのかな?」戸塚警部が言った。
大熊北斗が検察に送致され、事件も一通り解決した昼下がり。海老名と戸塚は屋上の喫煙所で煙草を吸っていた。
「そんなこと、今さら誰に何がわかるんですか」海老名が煙を吐き出しながら言った。「秘密はついに墓場まで持って行かれちゃいましたからね。おそらく竹屋の親父もまるくまの女将も知らないことだと思いますよ。北斗も変に勘繰らなきゃよかったのに」
「それにしてもエビ、またお手柄じゃないか。誰もがあの住職が犯人だろうと思ってたのに、よく発想を転換できたな」
「いや、何、煙草の神様のおかげですよ。俺だって内心、広徳寺のクソ坊主が犯人だと思い続けてましたからね。というより、あの禁煙ファシストが犯人であってほしい、俺たち喫煙者をこの屋上に追い詰めて、突き落とすつもりでいる奴なんか捕まってほしい、と思ってましたから」
「ま、人間というのはみんな、自分の見たいように物事を見るってことだな。俺たちもみんな、あの住職が竹屋の親父を殺した真犯人だと思ってた。あの住職が犯人であってほしいと願いながら、捜査をしてたようなもんだ」
「そうですね。自分の見たいように物事を見るあまり、そのまま視野が狭くなって、とんでもない方向に暴走することってありますから」海老名が煙草を1本吸い終わって、吸殻を吸殻入れに入れながら言う。
「さらにそれが加速すると丸出為夫みたいになるのか。あの住職が犯人だと思い込むあまり、寺へ盗みに入って証拠をでっちあげるとか、本末転倒もいいところだ」
「あいつの話はやめてくれませんかね。気が滅入ってしょうがない。せっかく今度こそ、あのバカも終わりだと思ってたのに……」
逮捕された丸出ではあるが、署長のぬるま湯よりも寛大すぎる慈悲によって、その日の昼には早くも釈放。そして窃盗や不法侵入の事実もないことにされてしまった。半ば予測できたこととは言え、この目ではっきりと丸出による窃盗を目撃した海老名としては、前回の事件以上に正義を踏みにじられたように感じ、苦い屈辱感だけが奥歯に挟まったまま、今でも取ることができないでいる。
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