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死刑判決
「……そう、か」
そう呟いたのはクローデットだ。魔女は嬉しそうに言葉を掛ける。
「そういうわけだ、クローデット。君の死にはいろんな要因が絡んでいる。ベルナデット商会と軽率な契約を結んだ夫君。それを躊躇いなく脅迫に使ったベルナデット商会。死に至る毒薬とは知らずにシュヴァリエへと手渡した睡眠薬。うら若き婚約者をそんな風に、平気で裏切ったシュヴァリエ。シュヴァリエと君を離宮へと誘い出した手紙。そして、王位継承という餌に釣られて、嘘の目撃証言をしたエレーヌ。だけど」
一度魔女は、そこで言葉を切る。
「一番の原因は、これが悪事と知っていて、実行に移すことを厭わなかった自分自身だ。そうだろう?」
「私は……」
言葉を探しているかのように、クローデットはしばしの間沈黙する。
「……そうだ。私は、罪深い女だ。……私自身がジャクリーヌを殺したと、その謗りを受けても仕方がない。……だから、私は」
訥々と、言葉を探すようにクローデットは呟き、また沈黙する。
「……だから、とは?」
シセリアは首を傾げる。クローデットの表情にはどこかしら諦観のようなものが篭っているように、シセリアには感じられる。
「最後に、私は。……だが」
クローデットの言葉の半ばで、魔女は嬉しそうに手を叩くのだ。
「そう! これがまた、クローデットの憎めないところなのさ。……シセリアも見てみないかい? 嫌だなんて言わないでくれよ、シセリアには是非、見て、それから聞いて欲しい。……いいよね、クローデット?」
「……ああ、別に構わない」
そして三人の前に、お茶が注がれる。
青緑の闇の底に、シセリアは再び幻影を見る。
『……被告人、最終弁論です。クローデット王子妃、何か言っておきたいことは』
厳しい口調で告げるのは裁判長、どうやら件の裁判の最終局面という場面らしかった。
『言いたいことは……あります』
証言台に立たされたクローデットが口を開く。
その口調、何かを諦め、達観したような、それでいて、挫けそうになる勇気を奮い起こしているような。
『何でしょうか』
『私が言いたいのは』
そして、クローデットは顔を上げる。
その視線の先には、上階に設けられた陪審員席から裁判を伺うジョルジュ第二王子。
『殿下。なぜ、何も仰ってくださらないのですか?』
『……!!』
はっきりと発音されたクローデットの言葉に、法廷に詰めかけた人々は息を呑み、そしてざわつく。
『知らないことは罪なのでしょう。だから私も裁かれるべき、そうしれません。でも、知っていることも罪なのではないですか、この場合?』
クローデットの足は証言台を離れ、ジョルジュ王子がいる方に向かって歩き出し、手を伸ばす。
『私は、あなたの指示に従ったのですよ。一体何なんですか、あの男は、そして、あの薬は』
『……連れて行け!』
そう叫んだのは、ジョルジュ王子だった。
衛兵に連れ去られて裁判から退出させられる過去のクローデット、そして、ジョルジュ王子。
それを見守る三人、そして、現在のクローデット。
「……そろそろ、クローデットの選択の時間だ」
そう言ったのは魔女だ。
「クローデット。君は、死に戻りを望むかい? それから、今の記憶を継承するかい?」
クローデットは暫し沈黙する、自分の中にある答えを探すかのように。
クローデットはやがて、それを見つけたようだった。
「私は、死に戻る、記憶を継承して。……罪を、罪と知って。どこに、どんな罠が待ち構えているかを知って。裏切りがどんな風に起きるのか、それを知って」
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