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ラマルタン王国の最後
「さて、最後のゲーム開幕だ。と言っても、もう説明する必要なんてないだろう?」
魔女の言葉に目を開けるシセリア。
シセリアが死んだのは、玉座の上だった。
その望み通り、ラマルタン王国の、ただ一人の女王として。
君主としての儀礼用の、装飾が施された鎖帷子に、頭には王冠を戴いた姿で。
玉座の上で無数の槍に突き刺されて、シセリアは死んでいる。
玉座の間は、今や荒れ果てて、死んだ姿を晒していた。
赤や青のビロード、金糸や銀糸で飾り立てられたカーテンや、国章を表した緞帳は引き裂かれている。
壁を埋めていた調度品は持ち去られ、なくなってしまっている。
その代わりに部屋を埋め尽くすのは紙。
何十枚も何百枚も、床には同じことが書かれた紙が、積み重なって落ちていた。
紙に書かれているのは、シセリアの悪行。
これまで計画し、実行に移してきた陰謀の数々が、細かい文字でびっしりと、余すところなく真実として記されている。
紙の一枚は、シセリアの体を貫く槍によってまた貫かれていた。
まるで、シセリアの罪状を疑いもなく、誰の目にも明らかにするように。
ジャクリーヌの毒殺も。
クローデットの処刑も。
エレーヌの焼死も。
全てシセリアの仕業だと、紙にはそう、書かれていた。
扉は閉ざされていた。
シセリアは、玉座の間でただ一人死んでいた。
外からは声、声、声。
王による支配からの解放を望む人々の声、革命の怒号。
シセリアは理解する。
ラマルタン王国は、こうして最後を迎えた。
シセリアの死によって、この忌まわしき王国は滅びたのだと。
「……とまあ、こんな感じだよ。どうだいシセリア? 何か、言いたいことはあるかな?」
魔女はそんな風に言って、シセリアに向かって手を広げて見せる。
その声は、前日とは違って、どこかしら優しい響きが混じっているようにも、シセリアには感じる。
奇妙な感覚ではある。
魔女はこんなにも悪趣味なゲームに、シセリアたち全員を叩き込んだのだから。
でも、違うのかもしれない。
このゲームを始めたのは、あるいはこのゲームをこんなにも悲惨なものにしたのは、シセリア自身だ。
シセリアと、それからもう一人。
「特に、何も。だけど。自分の死因を推理するんでしたよね」
「そうしてくれれば、僕としては言うことはないよ」
シセリアの死因。
誰がシセリアを、そして、なぜ殺したのか。
「私を殺したのは——」
シセリアは息を吸って、吐く。
死者には本来必要ではないはずの、その呼吸。
「——グザヴィエ。そうでしょう」
シセリアが犯してきた悪行の数々。
それらを全て知り、書き記し、人々に伝えることができるただ一人の人物。
「上出来だよ。じゃあ、最後の瞬間を見ていこうか」
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