グザヴィエ

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グザヴィエ

 魔女が指を鳴らすと、時間が巻き戻り始める。  奇妙な感覚。今までは、見ていた光景が消えて、それが形作られるだけだった。  だけど、今は高速で時間が巻き戻っていく。後ろ向きに歩く人間たち。  どうやらこれから見ることになる光景は、さっきの死の場面からほんの少し前に、この場で起きた出来事らしかった。  ——王女シセリアの革命は、シセリアが思った通り、計画した通りには行かなかったのだ。  シセリアが女王位を掌握して程なく、ある噂が流れ始めた。  ルイ王子の焼死とジョルジュ王子の失脚、それは全て、シセリアが計画したことだと。  シセリアはその噂を、軍隊を使い、力で押さえ込もうとした。  だが、それは失敗した。  やがて軍隊がそっくり、シセリアに反旗を翻した。  噂の出所、そしてクーデターの首謀者は、女王の共謀者、元牢番のグザヴィエだった。—— 『……どうしてですか』 『ご自分が、一番よく理解していることでしょう』  果たして、それはグザヴィエだった。  黒いフードに黒いマント、何度となく見てきたグザヴィエの姿で、唯一フードはその顔を覆っていない。短い黒髪に精悍な顔立ち、その顔面には真一文字に傷が走っている。  グザヴィエは同じような格好をした数人の兵士たちとともに、槍を手にして、シセリアを玉座に追い詰めている。 『どうしてですか、グザヴィエ』 『王国は滅びねばならない。これは、あなた自身の言葉です』 『だから、私たちはこの計画を実行した。そうでしょう』 『そう。ラマルタン王家の血を引くものは、全て殺した、あなたが。そして最後にあなたが死に、王国は滅亡する』 『あなたは、最初から……』  そう言いかけて、シセリアは言葉を失う。  最初に言い出したのは、計画したのは誰だったのか。  グザヴィエか、それともシセリアか。  思い出せない、どうでもよかったのかもしれない。  どちらでもあり、どちらでもなかったのかもしれない。  そこまでに、二人は一心同体だったのだから。 『あなたを一人にはいたしません。最後の仕事を片付けたら、私もそちらに向かいます』  そう言って、グザヴィエは、そして周りの兵士たちは、槍を構え直す。 『あなたと私は、二人でラマルタン王国を滅ぼした。そうでしょう』  事切れる直前、シセリアの耳に、ある声が聞こえてくる。 『女王は死んだ! 我々は、自由だ!』  それは、グザヴィエの声だった。
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