シセリアの選択

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シセリアの選択

「……とまあ、こういうわけだ。分かってもらえたかな、全体の構造が?」  シセリアは、再び魔女の大広間へと戻ってきていた。おそらくここに戻ってくるのも、これが最後になるだろう。 「ジャクリーヌはクローデットに、クローデットはエレーヌに、エレーヌはシセリアに殺されたと思っている。全てを知るシセリアは牢の中、そして、唯一頼りになるグザヴィエは裏切り者だ。君はこの状況から、全てをひっくり返さないとならない。こういう話だったんだよ」  そんな言葉で地獄のような現実をシセリアに突き付ける魔女の口調は、それとは裏腹に優しかった。 「ええと、あの。質問いいでしょうか」 「何かな?」 「もし私の罪を、こんな形で罰することが目的であるのなら。それならば」  シセリアは胸の前で拳を作る。  この下にあるものが、自分の苦難を作っていたのだから。 「どうして私に、こんな徴を与えたんですか? この徴がなければ、私はそもそもこんな計画を立てなかった」 「うーん、それは、なんというか……。別に、僕が罰したいと思ってるわけじゃないんだけどね」  そう言うと、魔女は軽く眉間に手をやる。 「悪魔の性質を理解してほしい。人間が自分自身の悪行によって破滅すること、それこそが悪魔の望み、というか義務なのさ。悪魔の目的は、そうやって破滅した魂を回収することだ」  それから、魔女は自分の後ろにある、巨大な砂時計を指し示して見せる。 「君たちのチャンスは後一回しかない。シセリアの境遇は可哀想だけど、それも広い意味では人間たちが勝手に決めたことだ」  それから、魔女はシセリアを、真正面から見つめ返す。魔女がそんな風に自分を見たのは初めてではないかと、シセリアは考える。 「君が、君自身を王であると考えるなら。その全てを正すことが、君自身の責任になる。今まで見てきた彼らに欠けていたのは、自分自身の目先の利益より大きな目的があることを考えて、それに向けて尽力することだ。敢えて言うなら、グザヴィエが王国を滅ぼし、君のことも殺すことで達成したとは言えるけど。だが、それもあくまで一つの回答であって、正解とは言えないだろうね」  それから、魔女は、シセリアに向かって尋ねるのだ。 「どうする、シセリア。死に戻りを望むかい? そして、この記憶を継承するかい?」  シセリアは目を閉じる、そして。 「私は、戻ります。記憶も継承する。次は……間違えないように。正しい選択が、出来るように」
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