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死に戻り
やがて、ジャクリーヌの私室の景色は溶けていき、全ては闇の中に帰っていく。
だが、その中に立つ四人の令嬢と、それから魔女の姿だけは、不思議とくっきり見えていた。
「…………」
無言でへたり込むジャクリーヌ。そこに寄り添うのはシセリアだ。
「でも、それでも。ジャクリーヌさん」
「……なに、よ」
声を掛けるシセリアに、掠れた声で応じるジャクリーヌ。
「『君には、悪いようにはしないから』、シュヴァリエさんはそう言いましたね。つまり、殺すつもりはなかった、彼自身には。たぶん、そうです」
シセリアは思い返す、最後に見た光景を。ジャクリーヌはまるで眠っているようで、死の間際に見せたと思われる恐ろしい表情をしていなかった。
「シュヴァリエさんは、それを睡眠薬だと思っていた。そして、それを渡したのは」
それから、シセリアは振り返る、残りの一同の方を。
エレーヌ、魔女、そして、——クローデット。
「……シュヴァリエさんはこう言いましたね。『奥方様の命令だ』と。ジョルジュ第二王子の奥方様、それは、あなたじゃないですか。……クローデットさん」
「…………」
クローデットは、ただ黙って、喉の辺りを手で押さえている。思い返してみると、ジャクリーヌの殺害の見聞を始めてから、クローデットはだんだんと言葉少なに、終いには無言になってしまっていた。
「…………私は」
絞り出す様な低い声でクローデットは呟く。
ゆらりと、ジャクリーヌが立ち上がる。
「…………そう」
ジャクリーヌもまた低い声で、しかしそれは、地獄から聞こえてくるかのような、迷いの消えた声だった。
そのとき、手を叩く音が一つ。
それが、一触即発に発展しそうなこの場の空気を遮る。
「……ここまでだ」
そう言ったのは魔女。
「ゲームのルールの追加説明だ。自分の死の理由を知った令嬢は、この後やりとりされる情報を知ることはできない。死に戻りを望むかどうか、それから死の記憶を継承するかどうかを選んで、このゲームからは退出しなければならない。と言っても、このお茶会での記憶は引き継げない。引き継げるのは、現世で起きた出来事の記憶だけ。……というわけで、ジャクリーヌ、君の選択の時間だよ」
一同の視線がジャクリーヌに注がれる。
ジャクリーヌはやがて、口を開いた。
「わたくしは、戻ることを望むわ。そして、死の記憶も継承する。二度と、同じ理由で殺されないように」
そう言って、ジャクリーヌはクローデットを睨め付けた。
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