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「それは違うよ」
唇を噛み締めながら、ミアははっきりとした口調で発した。悲しそうな碧眼に意志が宿る。
「たとえ貴族でも、お金持ちでも暴力を振るわれていい理由にはならない」
「でも私は貴族令嬢として何も」
「何もできてないから何?鞭うたれてもいいの?食事を抜かれて、暗い部屋に閉じ込められてもいいの?そんなわけないでしょ。私なんて……品の良い行動なんてできてない。ダンスも大して踊れないし、学業も全然だし、魔法は多少使えるけど……外国語の喋れないから国外との交流もできない。それで?私が鞭うたれてもマリアは当然だって思う?」
「そんなこと思いません!」
マリアは大きく左右に首を振った。ミアはとても優しく、明るい良い友人だ。彼女が傷つくのは見たくない。ダンスも学業も、外国語も彼女の価値を失わせるものにはならない。
「じゃあ少しのミスを厳しく咎められる人を見ても何も思わないの?」
「いいえ」
またマリアは首を振った。咎められる人を見るのは辛い。マリアと、伯爵令嬢と話しをしただけで殴られた農民を見た時も、優しい使用人が見張り番に連れられて行った姿を見た時も胸が痛んだ。
「そうでしょう。私も……マリアも一緒なの。マリアが傷つくと悲しいし、暴力を振るわれているのは許せない」
「でも、私のは罰で」
「血がにじむほど鞭を打たれるのが正しいわけないでしょ。マリアは世の中の子供が同じことをされていても、正当な教育だと言うの?」
息が詰まった。ニナが、キースが、フィルが……鞭で打たれる姿を想像しようとして、想像できなかった。瞳から涙が流れる。体が変わるだけで、涙もろくなるようだ。
「マリアは逃げて良かったの。貴族でも農民でも、商人も辛い環境から逃れる権利はあるの。ただもっと私に頼って欲しかった」
「ごめん、ミア。ありがとう」
青い瞳にも涙がこぼれている。マリアはミアを抱きしめた。自分の体は細く痩せていた。
「勝手に魔法をかけてごめん」
「うん。私もマリアの辛さに気付いてあげられなくてごめん」
2人ともが顔を上げて、涙をながして赤らむ頬で微笑んだ。マリアが茶色い瞳をひろげる。
「マリア?」
「ミアの体はどうなったの?私がリリィで、ミアは私に……」
あたふたと自分とミアを指差す姿は、冷静な王太子妃とは思えない。ミアは珍しい姿にぽかんと目を丸くした。微かな笑い声が2人の動揺を遮る。
「ミアの体は無事だよ」
アスターがマリアを見つめて優しく微笑んだ。
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