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いつも固く閉じられていた襟元は緩められ、少し崩されている。優しげな微笑みを浮かべた姿はマリアの記憶通りだった。
「ミアの体は既に保護している。二人が魔法をかけあえば、すぐに元の体に戻れるよ。念のため、王宮魔術師の補助は受けてもらうけど」
「体調等に変化はありませんか?」
「もちろん」
「そうよ、だからマリアは心配しないで」
アスターとミアが笑いかけてくれて、マリアの瞳にまた涙が滲んだ。
「ありがとうございます。この責任は必ず取らせていただきます」
アスターに向けて頭を下げ、伯爵令嬢の姿をしたミアに向き合った。
「ミア、本当に巻き込んでごめんなさい。私はこれからどうなるか分からないけど、どうか殿下と幸せになって」
「「え?」」
「ん?」
2人から困惑した目で見られて、マリアは首を傾げた。何かおかしなことを言っただろうかと考え、彼女たちは互いの想いを知らないのに先に言葉にしてしまったと勘違いを起こした。
「申し訳ありません」
ああ、先に告白をしてしまったとアスターの顔色を窺うと、予想通り顔面が蒼白になっていた。
「ミア、今の言葉は忘れて。いえ、忘れないで。幸せにはなってほしいの」
「忘れないし、何か勘違いしてるよね。え?何で私と殿下が幸せになるの?マリアと殿下がなるんでしょう?」
「そうだよ。俺はマリア以外を娶るつもりはないよ!」
両者から勢いよく詰め寄られ、一歩退いたがその退いた距離よりも近くなる。焦って、更に不用意な言葉を続けた。
「殿下とミアは想い合っているのでしょう?」
「「何でそんなことを思いつくの?」」
「だってミアは王太子妃候補を集めた茶会に出席していたでしょう?」
「そんなのずっと昔のことでしょ。あの茶会はほとんどの貴族令嬢が出席していたし、私の意思なんて関係なく王宮に集められたんだから。むしろ私は好きな人を募集している立場だから」
「好きな人は募集するものではないと思いますが……。でも確かに茶会は強制参加でしたわね」
王太子妃候補を集めた茶会は、王族が貴族令嬢を見定める機会であるとともに、各家と繋がりを持つ貴重な機会でもあった。茶会からミアとマリアのように友人同士になった令嬢たちも少なくない。マリアは納得したように頷いた。強制参加という言葉で王太子の心に微かに傷を負わせていることも気づいていない。
「……俺はマリアを愛しているよ。ミアなんて一切興味ない」
『なんて』と言われたミアは顔を引きつらせた。体は彼の婚約者だが、中身は男爵令嬢なので文句の1つも言えない。
「なんてはミアに失礼ですわ。殿下はいつもミアを褒めてらっしゃっるのに……。私がミアと会うと聞いたら『羨ましい』とまでおっしゃられてるのに」
ミアに対して殿下のフォローをした。自身の顔に向けて話しかけるのに慣れてしまっている。マリアとミアに二人きりのような雰囲気が現れる。その雰囲気をアスターの叫びが壊した。
「それはマリアがミアの話の時は嬉しそうにするからじゃないか!」
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