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子どものような叫びにマリアは目を白黒させた。
「いつも整ってる表情が、ミアを褒めるとふんわりと柔らかくなるんだ。もちろん、どんな君も愛してる。でも優しく微笑む姿も見たい。俺には微笑みかけてくれないのに、ミアには優しいから、ついミアの話題を出してしまうのは俺も悪い。でも俺にも笑いかけて欲しかった。俺もマリアの屋敷に行って、国務もない穏やかな時間を過ごしたかった。いやマリアは何も悪くはない。いつでも素敵だ。でも……」
「ほら殿下はマリアを愛しているの。私なんて眼中にないっていうか、むしろ嫉妬の対象になってただけだから」
ミアは両手でマリアの手を掴んだ。
「愛?」
「そうだよ。周知の事実だから、安心して」
「そうやって2人の時間を作るのはやめてくれないかな。マリア、俺の話も聞いてくれ!」
「日頃からマリアに愛を伝えていれば、聞いてくれるんじゃないですか」
「緊張するんだよ。好きな相手にはかっこよく見られたいじゃないか」
ミアは身分のことも忘れて、言い争っている。自分の姿が表情豊かに、身振り手振りを含めながら話したり、アスターが顔を赤らめながら言い返しているのが物珍しく、笑みが溢れた。
「ふふっ」
アスターが呆然とマリアを見つめた。
「笑った。俺に笑いかけてくれた。あぁ、嬉しい。でもできれば元の体に戻ってから、もう一度笑ってほしい」
「私が笑いましょうか」
「ミア、お前の笑顔などいらん」
「王太子なら全国民の笑顔を望むべきでは?」
「ふふふ、2人とも仲がいいのね」
首がへし曲がるのではないかと心配になりそうなくらい、勢いよく2人が振り向いた。
「ミアのことは好きではないからな」
「王太子なんてなりたくないから。それに殿下は『俺がマリアの中に入りたかった』とか気持ち悪いくらいにマリアを愛してるから!」
「そうだ!こんな雑な令嬢にマリアの体を任せるなんて。俺なら大事に大事に……」
「まるで私がマリアを傷つけたみたいなこと言うのやめてもらえますか。傷なんてつけてないから。ちゃんと栄養ある食事もとったし、毎日髪をといたから!」
ミアの言う通りだった。最初から不安を口にすれば、彼らは否定してくれたのだろう。まさかアスターが拗らせた愛を持っていたなんて、入れ替わる前は知らなかった。胸が温かくなると共に、暗いものも宿った。
「アスター殿下、勘違いしてごめんなさい」
「いいよ。伝える勇気がなかった俺が悪い」
様子は異なるが優しいのは変わっていない。今なら彼も聞いてくれるかもしれない。
「殿下にお願いがございます」
「なんだ?愛するマリアの為なら何だってする。あ、婚約破棄以外ならな。家のことなら心配ない。入れ替わりの真実も伯爵妃には気づかれないようにしたからな。だから安心して俺と愛し合ってくれ」
タガが外れたのか、口数が多い。マリアは深く息を吸った。婚約破棄や身分剥奪はもう気にかけていない。この数分でアスターがマリアを手放せないのは分かった。心配なのはあと3つだ。まず1つ……。
「エブリン達を解放してください」
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