再会と別れ

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数年後…… 「エブリン、早く!」 「リリィ、そんなに走ったらこけるよ」 「こけないもん。私ももう大人なんだから」 「大人なら慎みを持ちなさい」 そばかすに飾られた顔に満面の笑みが浮かんでいる。もう2度と見ることができないと覚悟していたのが随分昔のことのように思える。エブリンはリリィが走る姿を眺めながらゆっくりと歩みを進めた。 「はやくーーーーー。王太子様たちが通り過ぎちゃうよーーー」 走っていた彼女は振り向いて大きな声をかけた。今日は王太子と妃の馬車がこの村を通る日だった。どうしてこのような小さな村を通るのかは、おそらくエブリン達しか知らないだろう。大抵の人間は『新しい傍仕えの騎士の故郷なんだろう』なんて憶測を立てていた。あの赤髪の故郷をエブリンは知らないが、この村でないのは確かだ。 「通り過ぎるってまだ来てないじゃないか」 「でも。もうあそこに見えているよ」 リリィの指先をたどると馬に乗った騎士が木々の隙間から見えた。 「かっこいいね、キース」 「うん」 ニナの言葉に背が伸びたキースは素直に頷いた。彼女の髪には母が縫ったリボンが結ばれている。両親が戻ってきてから、彼女の表情は明るくなった。王家が侯爵家を監視という結びつきを強くしたおかげで、ロングレン領は平和になった。急な焼き討ちひ怯える日々はもうない。 「やっぱり騎士の馬は村のと違うよな」 「馬かよ」 「あはは、馬もかっこいいよね」 キースの瞳はずっと騎士を捉えていた。 「キース?」 「フィル、ニナ」 「「ん?」」 「俺、騎士になる。強くて守れる騎士になるから」 「「うん、知ってる」」 幼馴染2人が驚きもせず頷いた姿にキースは笑みを浮かべた。彼等の視線の先に馬車が現れた。馬車が通る道で喝采が起きている。王太子たちが窓を開けて手を振っていた。その馬車の横に控えるように、青毛の馬に乗る男の赤髪が揺れている。行列はゆっくりと村を通った。笛の音が鳴り、子どもたちの前で馬車が止まる。得意げな騎士の笑顔を睨みつけると、男はへらへらと笑った。何年経っても、立場が変われど簡単には振る舞いに変化はない。彼は馬から降り、馬車のドアを開けた。  黒髪の背の高い男が美しい金色の髪をしたお嬢さんを連れて足を踏み出した。覚えのある姿勢に、上品な微笑みがエブリンの記憶を刺激する。 「貴族の事情に巻き込まれたくないって言った気がするけどね」 嬉しさが混じった呟きは誰の耳にも届かなかった。
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