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sideミア(短編再投稿)
彼女をひと目見た瞬間から「敵わない」と思い知らされた。美しく輝いた金色の髪に二重で大きな蒼い目、整って適度な高さの鼻、ピンク色の唇というような童話から出てきたかのような美しい容姿と、その容姿に負けないほどの所作や立ち居振る舞いは比類するものが無いほどに光り輝いていた。もちろん、礼儀作法は伯爵令嬢という身分故の教育の賜物かもしれないが、それを幼い頃から自分の物にする優秀さを持っていることには変わりはない。また魔法を使う力も備わっていたので『理想の令嬢』だと性別問わず、羨望の眼差しで見られていた。彼女の名前はマリアと言い、王太子の婚約者候補を集めたお茶会で私は彼女に出会った。
「それから私と彼女は清いお友達関係なの」
「よくお友達になれたよね」
「その作法で」という意味が含めて、呆れたように、レイは目の前の幼馴染ミアに言った。ミアは両手がカップを持ち、両肘をテーブルに付け、優雅とは言い難い姿勢で紅茶を飲んでいる。
「こういう崩れた感じがマリアには新鮮で良かったのかも」
「幼馴染とはいえ、未婚なのに異性と2人でお茶をする令嬢とか崩れているよね」
「それに関しては昔から一緒にいすぎて今更って感じ」
レイとミアは親同士が仲が良かったため、物心つく前から知り合っていた。とは言っても、ミアは子爵令嬢であり、レイは若手の騎士なので2人きりで過ごすことは他者から見れば信じられないことなのかもしれないが、付き人をつけずに市街や森を歩き回るミアの日常を知っている家族や使用人たちは大人しく屋敷でお茶を飲んでくれていることに寧ろ有り難く思っている。彼女が尊敬されている未来の王太子妃とよく交流をしていることを周囲の者は怪訝な目で見ていたこともあったが、彼女達はその目を気にした風もなく、仲の良い友人であると周囲に紹介することさえあった。
「寂しくなるなぁ」
ミアは砂糖を2つ魔法で浮かし、紅茶の中へと溶かし入れ、木苺のジャムをのせた丸い焼き菓子を手に持ちながら小さい声で言った。この木苺はミアが採ってきたものだ。
「何が?」
「マリアの結婚の日取りが決まったでしょ。もし王太子妃になったら、今までみたいに気軽に会えないじゃない」
ミアとマリアは貴族が通う学校を卒業してからも週に何回も家を行き来していた。マリアは王族になるための礼儀作法や王族として知っておくべき事柄を今も習っていたので、ミアに会うための時間を空けることに苦労していたことはミアでも分かっていた。王太子妃になると更に王族としての仕事が待っている。個人的な時間など暫くは取れないだろう。もし取れたとしても長く話し込むことはできないのだ。
「悔しいとかは……無いの?」
レイは草花の絵柄が書かれたティーカップの取手に手を触れ、言葉を詰まらせながら尋ねた。
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