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『話は聞いたよ。災難だったね』 「すみませんでした。任された銀行を守り切れず」 『いや君の責任じゃないよ。タイミングが悪かったね。今日はあの祭りの日だったろう。警備や警察はそちらに目を向けていたし、辺りの騒がしさで銀行のごたごたにも気付かなかったらしい。警備員もちょうど交代のタイミングだったしな』 「そうだったんですか。しかしどうしても責任は感じてしまいます」 『気に病む必要はない。自分が矢面に立って誰にも銃を向けさせなかったと、他の行員から聞いてるよ。私は君を支店長に任命したことを誇らしく思う』 「ありがとうございます部長。しかし部下たちはこれからどうなるんでしょうか」 『ああ、それも心配しなくていい。銀行は潰すことになると思うが、彼らは別の部署に配属する予定だ。悪くないポジションを口添えしておこう。もちろん君もだ』 「本当ですか。お心遣いありがとうございます」 『今後について詳しいことは追って連絡するよ。今はとにかく休みなさい。十五年間、支店長の務め御苦労だったね』 「とんでもございません」  失礼します、と言葉を残して支店長は電話を切った。オフィスチェアの背に身体を預けて息を吐く。  あれから残された従業員たちは協力し合いながら支店長の拘束を解いた。その後駆け付けた警察に事件の経緯や犯人像を説明したが、犯行時間が短かったこともあり『眼鏡をかけたサラリーマン風の男二人に銃で脅され拘束されました』という頼りない情報提供のみに終わった。  事情聴取を終えた従業員たちは家に帰され、彼だけ本社への連絡のため銀行に残ったのだ。  監視カメラの映像も確認したがひどく乱れていて見られるものじゃなかった。あれでは何のヒントにもならないだろう。現場に残された僅かな情報だけでは犯人逮捕は難航を極めるはずだ。  いや、捕まってしまっては困る。少なくともこの銀行が正式に閉店するまでは。 「十五年、か」  白い蛍光灯に照らされ、しんと静まり返ったフロアを見渡す。  ここにはもう金も、客も、従業員もいない。支店長という看板は燃えて無くなった。明日から数日被害を受けた客に頭を下げ続けることにはなるだろうが、その後にはすべてが終わる。  座ったまま深く呼吸をした。  久しぶりに息を吸った気がする。何も持っていないことがこんなにも軽く、清々しいものだとは。もっと早くこうするべきだった。  依頼主の額へと銃口を向ける彼の言葉を思い出す。 「……君たちにはわからないだろうね」  音一つない死んだ建物に元支店長の呟きが響いた。 「最後を任された者が背負う重みなど」 (了)
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