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「銀行強盗をやらないか」
昔同じ会社で働いていた軽部にそう誘われたのは一週間前のことだった。
久しぶりに来た電話で挨拶もなくそんなことを言うもんだから俺は当然「はあ?」と訊き返す。
「だから銀行強盗だって。銀行を強盗するんだ」
「知ってるよそんくらい。でもそんなの昔の話だ」
俺は中学での歴史の授業を思い出していた。教科書に載っていた写真が頭に浮かぶ。
昔、というほど過去でもないのかもしれないが、四十年ほど前にはまだ硬貨や紙幣といった『現金』と呼ばれるものがあったらしい。
財布というポーチのようなものに入れて持ち歩き、会計の際には毎回その中からいくらかを数えて取り出したという。ピッタリの金額がないときは多めに払って差額を返してもらっていたそうだ。お釣り、というらしい。
面倒くさいな、と当時の俺は素直に思った。
いちいち人が数えなきゃいけないのか。ミスも起こるだろうし効率が悪い。ボケ防止くらいしか役に立たなさそうだ。そりゃ無くなるよな。
今はすべての会計が電子マネーによって完結する。財布を持つ必要も、金額を計算する必要もない。店によっては一部対応していないペイアプリもあるが、複数のアプリをインストールしておけば問題はなかった。
「それにそもそも銀行がないだろ」
現金から電子マネーへの完全移行化にあたり、日本では様々な変化が起こった。
スマートフォン普及率は九十九%となり、乳幼児以外の国民全員がスマホを持った。容易に電子マネー会計が可能になる機器が次々と開発され、現金のみの会計を強いていた商店は姿を消した。国も現金の発行を止め電子マネーの発行のみを行っている。今の造ペイ局はその昔、造幣局という名前だったそうだ。
預金も電子マネー化されたため、銀行も実店舗は無くなりネット銀行のみとなっている。まさかクラッキングでもしようというのか。
「俺はネットには詳しくねえぞ」
「ああオレもだ」
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