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 電話口で軽部は笑った。  完全電子マネー化においてクラッキング防止は最重要課題だ。一部の隙もないセキュリティが組まれていることだろう。スマホですら十分に使いこなせていない四十代のおっさん二人に突破できるわけがない。 「でもあるらしいんだよ。まだ店舗やってる銀行が」 「ほんとかよ。東京に?」 「もちろん東京だ。東京は興醒めなほど何でもあるからな。言われた場所にもこの間行ってみたけどちゃんとあったし」 「言われた? なんだ誰かからの依頼なのか?」  そう問うと軽部はばつの悪そうに口ごもる。  なんか言えよ、と促せば彼は観念したように「この前急にオレのスマホに電話かかってきてさ」と話し始めた。 「『銀行強盗をしてほしい。報酬は強盗をして得た現金すべてだ』って」 「なんだそりゃ。怪しすぎんだろ」 「オレもそう思ったさ。けど『前金として二百万振り込む』って言われて本当に振り込まれたんだよ」 「は、嘘だろ? てかそれ受け取るってことは承諾してんじゃねえか」 「手伝ってくれるんなら半分やるから安心しろよな」  完全電子マネー化とはいえ今でも現金に価値がないわけではない。押入に眠っていた現金を電子マネーに変換するサービスなんざ腐るほどある。側面に凹凸のある十円玉などレアなものは通常よりも高値で買い取ることもあると聞く。 「だからさ、オレと一緒に日本で最後の銀行強盗をやらないか?」  軽部はもう一度俺を誘った。  いや怪しすぎるだろ。正体不明の電話も内容も前金も、絶対にヤバい案件だ。関わらないほうがいい。  断る理由を探していると、それより先に新たな疑問が生まれてきた。 「そもそもなんで俺を誘うんだ」 「ろくな技術も能力も免許も無いのに、ってか?」 「ほんとに誘う気あるんだろうな」  だが軽部の言うことは間違っていなかった。  俺が主犯だとしてももっと有能な人材を誘うはずだ。俺に銀行強盗として優れている点は背格好が日本人平均なことくらいだろう。  しかし軽部は、簡単なことだ、と笑った。 「上重もオレと一緒で金無さそうだったから」
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