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無職になった開放感!というものは最初の数日で無くなった。 たっぷり残っていた有給が約4週間。 上司に退職届を出した次の日、会社員になってから初めてお昼まで寝てみた。 時間に縛られることなく朝寝坊するのが夢だった。 けれど9時には目がさえてしまって、無理に寝ようとしてもむしろ疲れてしまう。 夢は夢のままの方が良かったのかもしれないと思った。 6時に起きて、7時に家を出て、22時頃に帰宅して、25時には就寝する。 ほとんど寝るために帰宅するような生活。 そのサイクルが、あの会社で務めあげた約5年で染み付いてしまったらしい。 今朝も6時半には目が覚めてしまった。あの日から2ヶ月近くが経つというのに体はまだ新しい生活に慣れていないみたいだ。 そろそろ日中暇をするのにも飽きてきた頃。 次の仕事もまだ決まっていない。たまに気が向いた時にハローワークへ足を運ぶがどうも気が乗らない。 幸い、前職は俗に言う「ブラック企業」というもので、ほとんど自分の時間がなかった。 残業代は多少出ていたので、ブラックというよりは限りなくグレーなのかもしれない。 その分もらったお給料の使い道も無く、大学時代のバイトで稼いだ分を含め同年代の中ではやや多めの貯蓄があった。 目減りしていく貯金額に正直焦りを感じることもあるが、まだ見ないふりはできる程度。 退職してから税金の支払いで思いのほか出費がかさんだ。 400万近くあった残高は今や300万少々。給料から知らない間に引かれている税金とはかくも大きいものなのかと打ちひしがれている真っ只中。 これが150万を切ったら本気を出そうと思う。 それまでは自分が出来なかったことをしよう。 少しくらいご褒美として時間とお金を消費したって良いはず。 大学卒業以来、あの会社で溶かした私の5年を取り戻したい。 なんせ無職なもので時間はたっぷりある。 何から始めていこうか、ここ最近の楽しみであり悩みの種でもある。 辞めてから時間を持て余しつつ自分は何がしたいのかを考えた。 特に何も思い浮かばなかった。 これではダメなのでは? このままダメな人間になってしまうのでは? 日中ぼうっと部屋で無意味に過ごしていると不意に焦燥感にかられた。 何かしなくてはいけないような気がする。何をして良いのかわからない。 仕事ですり減らした心がまだ回復しきっていない。 とりあえず外に出よう。人との繋がりを求めて出かけることにした。 高めの焼肉に行ってみた。就職してからまともなお休みはとった記憶がなく、友人と出かけることもなくなり少しずつ疎遠になってしまったため気軽に呼び出せる友人はおらず1人で行った。 良い肉なのだろうが隣の席の仲の良さそうな家族連れや、育ちの良さそうな若いカップルや、自分が1人であるという疎外感を煽るその他の要素が多くあり過ぎたので家で安い肉を適当に食べた方がマシだと思った。 自己投資にと高めのエステにも行ってみた。店に入った途端に清潔感のある、何とも言い難い高級な匂いがした。 美人なスタッフがなんだか不思議な横文字の化粧品を細かく説明してくれるが正直全く分からない。 顔のマッサージをされている間に睡魔に襲われついつい眠ってしまったので2時間2万の高級エステは体感30分で終わった。 寝てしまったことを後悔した、多分もう行かないと思う。 後に残ったのは少し脂の乗った肌ツヤの良い27歳無職ニート一人暮らし。自慢する友達はいない。 慣れないことをしたので少し疲れてしまった。 自分のやりたいことをやる、そんな簡単なことをここ数年おざなりにしていたせいで、自分が何したいのかすぐに思いつかない。
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