迷イ人、到着。

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迷イ人、到着。

 村は案の定、お祭りをしていた。やぐらを囲んで踊って、美味そうな脂の滴る焼肉を、切り落としては配っている。服装は全員が全員、着物姿。そして、子供くらいの背丈の人は全員、鬼のお面をしていた。 「なんだ、ここは秋田だったか?」 「ナマハゲじゃなくて鬼でしょ。ナマハゲは正義で鬼は悪、真逆なんだから。」 「へいへい。」 「語らせておいて失礼な奴ね……。」  オレはエンジンを切った。車を降りるなり、ボロっちい着物の老人が歩いてきた。 「こんばんは。」 「なんだよ、改まって。」 「アンタに言ったんじゃないわよ。おじいさん、こんばんは。」 「ああ、こんばんは……。貴方は……達は……んん?あんた達は……道に迷ってここに来たのかい?」 「そうだ。鹿に追い詰められちまってな。」 「鹿様にですか!!それはなんとおめでたい!!」  爺さんは目を細めて笑った。 「鹿様だァ?何頭も着いて来やがるから、ありがてェ生き物ってよか、もはや一種の恐怖だったぜ?」 「何頭も!?そうですか、そうですか……。貴方は、鹿様達に選ばれたのですね。きっと貴方なら、この村を救うことが出来ます!」 「救うだァ?」  爺さんは更ににじり寄ってくる。鼻と鼻がぶつかりそうな距離になった時、目に涙を浮かべているのがわかった。……なんだ、この村は。 「お願いします。この村を救ってください!!」 「……え……私!?」 「イチゴォ!?」  あそこまでオレに近付いておいて、爺さんは軌道を変えてイチゴの手を取った。 「って、イチゴに触んな!!」 「おおっ、これは失礼……。」  老人はイチゴから手を離して、距離を取った。 「大体、なんでイチゴなんだ?車に乗っていて、鹿に追われていたのは俺も一緒だ。」 「でも貴方は、男性ですから……。」 「女じゃないと村を救えないってところか?」 「はい。それも若い女性です。」  若い女が村を救う……?嫌な予感がする。これってよくある、純真無垢な少女を生贄にするとかじゃないだろうな? 「ねえ、私……やってみてもいいかな?」 「はァ?どうしてお前は、そういうところだけ油断するんだよ。怪しいだろうが。帰るぞ。」 「でも、ゲートに鹿が……。」 「鹿ァ……?」  先程通り抜けたゲートを見ると、本当に鹿がいた。それもさっきよりもかなり多い。 「鹿なんざただの草食動物だ。わかるか?草食動物ってのは、だだっ広い視界でビクビクしながら逃げてばっかりだ。少し脅かしてやれば──」  言葉に詰まった。老人が恐ろしい形相で俺を睨んでいる。シワの多かった顔に更にシワを寄せ、顔を真っ赤に染めている。  殺される。  オレは直感で理解した。 「……ねぇ、良いよね?きっと鹿さんも応援してくれてるのよ。」 「ええ、そうですとも!」 「……。」  オレは納得いかないままだったが、老人に連れられるイチゴに仕方なく着いて行った。
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