笑い飛ばせば

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笑い飛ばせば

 夢のなかで神たちと話した翌朝、雪治は朝日が昇りきる前の薄明かりの中で寝ぼけ眼のまま呟いた。  「神ってオプションとか言うんだ……」  神の言葉遣いが現代に寄っていたことが気になった雪治だが、やはり勝手に体を改造された怒りやら嫌悪やらが胸の内で渦巻いて吐き気がした。あの様子では回復力を戻してはくれないだろうし、そもそも戻す方法がない可能性すらある。神たちへの黒い感情を振り払おうと朝の鍛錬がいつもより長引いた。  宴に混ざらなかった上に湯船で寝てしまった雪治を心配してか、雪治が長引いた朝の鍛錬を終えてシャワーを浴びると、妖たちの手によって既に朝食が用意されていた。  「優しさが身に沁みる……」  雪治は味噌汁を飲んでほうと安堵の息を吐いた。だがそれ以上はどうにも箸が進まない。ぼんやりと神棚を見つめると、「嬉しかろう?」と笑った傲慢な神の声が頭の中で木霊した。溜め息を吐いた雪治に、背後から色気を垂れ流しながら飛縁魔が声をかけた。  「随分と浮かない顔ね」  「おはよ、ひのさん」  「おはよう、坊や」  飛縁魔は男を誑かして金品を奪い取り最後には命まで取ってしまう、と言われている妖だが、本人いわく今はそこまではしないそうだ。そもそも意図せずとも魅了がかかってしまうことも多く、魅了の力も考え物である。その点、雪治には昔からその魅了が効かないため居心地がよく、彼女は頻繁に井上邸に来ている。  モヤモヤした気持ちを消化しきれない様子の雪治の頭を飛縁魔が優しく撫でた。その手つきの心地好さに雪治はうっとりと目を細め、もっと撫でてとばかりに頭を差し出した。  「夢で神と話したんだけどさ、神様ってのは皆あんな傲慢なのかな」  「どうかしらね。私は話したことないからわからないけれど……八百万もいるんなら、きっと謙虚なのもいるわよ」  「俺ハズレ引いたってことかぁ」  「傲慢なのに好かれると大変よね、わかるわ」  狙っていない時にも溢れ出る色気で厄介な男からも好かれてしまう飛縁魔の、実感の籠もった同意に雪治も思わず笑みをこぼした。ひとしきりふたりで声を上げて笑えば、もう雪治は吹っ切れて晴れやかな顔で完食していた。  今日は師範としての仕事は夜の部のみだ。せっかくならどこかへ遊びに行こうと手にしたスマホが震えた。見れば大学生時代の友人たちのチャットグループが動いていた。どうやらまだ学生をしている面々が暇を持て余しているようだ。  「あら、出かけてしまうの?」  「人間の友達と遊んでくる」  「いいわね、いってらっしゃい」  「いってきまぁす」  参加の旨を送って出かける準備をしはじめた雪治に、飛縁魔が寂しげな声で尋ねた。この声がまた男を惹きつけてしまうのだが、雪治には効果がない。派手な着物に雪駄で出かける雪治を、飛縁魔は嬉しそうに見送った。
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