あなたのために巣を作る

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 見るもんかと思っていた。思っていたのに、みすみすと目を惹かれてしまった。それは、呪いを背負って生まれた、人ではない人たちの話だった。出会って、仲間になって、喧嘩して、また仲間になる。少し違えば、比嘉と辰巳だって、あんな風にゆっくりと仲良くなれていたのかもしれない。なんて皮肉だろう。  思い悩んだ挙句に宇宙に飛び出て、なぜか争い始める謎展開。最後はヒロインと手を取り、主人公は爆発に飛び込んでいく。くだらないのに、面白い。比嘉の好みをよく分かった映画だった。名前を聞いたその日に、こういう映画が好きなのだとべらべら語った覚えがある。 「……くだらねー」  ぽつりと呟いた言葉に、がばりと辰巳が反応する。その必死さと、下手をすると比嘉以上にやつれた顔に、思わず力のない笑いが漏れる。久しぶりに動かした頬の筋肉が痛かった。 「なんで、お前がそんな顔してんだよ。俺を閉じ込めて散々してんのはそっちじゃんか……」 「僕は……、ただ、比嘉さんが好きで、仲良くなりたくて……、それだけ、だったのに」  ぽたりぽたりと涙が伝う。気づけば互いに泣いていた。どうしてこんな目に。どうしてこうなってしまったのだろう。憎くて恨めしくてたまらない相手なのに、泣いている顔を見ると可哀想で仕方がなくなった。おずおずと手を伸ばす。いつかそうしたように、比嘉と辰巳はソファーで並び、そっと指を絡ませた。 「なあ辰巳くん。なんで俺なんか、好きになったの」 「なんかって言わないでください。ひとめぼれ、に、近いかもしれません。僕、死にたかったんです。蜘蛛の人を見かけるといい匂いがして、襲いたくなって、そんな自分が怖かった。でも、父に連れられて、仕事をしている比嘉さんを見る機会があって、救われる気がした」  仕事。いったいいつの話をしているのかさえ、比嘉には分からなかった。人の顔も名前も、いちいち覚えていない。殺しをしている蜘蛛を眺めにくるなど、蜂の趣味は分からないなと思うだけだ。 「俺、食べてるときなんて理性ぶっ飛んでるからさぁ、気持ち悪かったろ」 「いいえ。きれいでした。本能のままに肉を食らうあなたが、とても自由で、美しく見えた」 「変わってんね」 「勝手な話ですけど、血まみれになって笑ってる比嘉さんを見ていたら、僕みたいなやつでも、生きていていいのかなって思ったんです」 「俺みたいな食人鬼よりマシだって?」 「いいえ。……いいえ。違うんです。そういうことじゃ、ないんです。だけど結局、だめでした。僕は、蜂の本能に負けた。あなたを閉じ込めて、孕ませて……こんなつもりじゃなかった」  ごめんなさい、とひたすらに繰り返される謝罪を受け入れるには、育った憎悪が大きすぎた。だから代わりに、比嘉は真っ白な天井を見上げてぽつりと言った。 「あーあ。辰巳くんと寝るんじゃなかったなぁ。……君と友だちになれたら、蜘蛛も蜂も全部忘れて映画を見てさ、きっと楽しかっただろうな」  しゃくりあげるように辰巳が泣き出す。してしまったことはなかったことにはできない。辰巳が蜂として生きることしかできなかったというのなら、比嘉もまた、それに倣おうと決めた。
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