あなたのために巣を作る

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「あー、まずい。くそまずい。見た目はこんなにいいのにさぁ、なんでこんなにまずいんだろうな、辰巳くん。がっかりしちゃった」 「ご、めんなさい。蝶が、いいですよね。僕が、すぐ――」 「だからさあ、違うんだよなぁ」  苛立ちがおさまらない。どこに今までこれほどの感情を押し込めていたのか自分で自分が分からなくなるくらい、怒りと憎しみが交互にふつふつと湧いて、止まらなかった。  比嘉は蜘蛛だ。この若い蜂に受けた屈辱すべて、三倍にして返してやらねば気が済まない。 「俺はさあ、食う側なわけよ」 「はい」 「さあどうぞって渡された肉に、何の意味がある? 俺は狩りてえの。逃げる獲物を追いたいの。怯えるエサに、優しく優しくしてから殺してやって、思う存分血肉をすすりたいわけよ。それを、お前が――!」    言葉にするたび、目の前が怒りで真っ赤に染まっていく気がした。辰巳は何も言わない。ごめんなさい、とか細い声で呟いたあとは、すべての抵抗を投げ出すように目を閉じるだけだった。  感情のままに、辰巳の服を引きちぎる。産卵を終えた直後だから、比嘉の下半身は丸出しだ。ずっと触れられていなかったこともあり、手で数度しごいてやるだけで、己の性器は簡単に固くなった。 「許さない」 「分かっています」 「手足の一本一本、千切ってやるよぉ、辰巳くん」 「比嘉さんになら、何をされても構いません」    比嘉は辰巳ほど優しくない。快楽など感じさせてやる気もなかった。辰巳の足を割り開く。狭い穴に固く反り返ったものをあてて、いつも死体にしていたように、慣らすこともせずに勢いよく突っ込んだ。 「ぐ、ううっ!」 「痛い? 痛いよなぁ。かわいそうに、辰巳くん。初めて?」 「ひ、……っ、うっ、う……、は、い……」  好き勝手に腰を振るたび、辰巳は痛みからか弱々しく首を振る。今の今まで自分を支配していた忌々しい男が、自分の下でみじめに震えて涙をこぼしている。その姿は、ぞくぞくするような興奮を比嘉に与えてくれた。 「はじめてならさぁ、なんでこんなひっでえやり方で、おったててんの。比嘉さんに教えてよ、辰巳くん」  腹に当たる固いものを掴み上げ、咎めるように締め付ければ、辰巳は目を見開いて顔を赤く染めた。 「ごめんなさい。……好きなんです」 「痛いのが?」 「違います。比嘉さんが、好きなんです。あなたが、僕だけを見てくれている。こんな風に、感情をぶつけてくれて……そう思ったら、すごく、嬉しくて……」  思いがけない言葉に、比嘉は動きを止めた。 「ごめんなさい。ごめんなさい。ふつうに、好きになれなくて……こんな、気持ち悪いこと言って、ごめんなさい。比嘉さん、好きです。ずっと見てることしかできなかったのに、あなたが僕の名前を呼んでくれた。触れさせてくれた。あなたは僕を憎んでくれた。比嘉さんが、僕を……僕だけを見てくれた」  それが嬉しくてたまらないのだと辰巳は言う。ごめんなさいと涙を流しながらも、辰巳の唇は奇妙な形に歪んでいた。腹が立って仕方がないのに、その歪な愛の言葉に、まんまと比嘉は煽られる。  手に握り込んだ辰巳のものを、いつしか比嘉は擦り上げていた。ゆるく握り込み、己の腹と手の間にすりつけるように刺激してやる。そのたび、信じられないものでも見るように辰巳はびくびくと体を跳ねさせた。 「……っ、なに、比嘉さん……う、あ、どうしてっ」 「さあねえ。どうしてだと思う? ほら、かわいい声を聞かせてくれよ、辰巳くん」 「あ……っん」 「ああ、上手」  無理矢理ねじり込んだ後孔は血まみれだというのに、それでも前の刺激だけで、辰巳は達したらしい。苦痛に顔を歪めて、控えめに声を上げる姿は色っぽかった。以前なら、かわいいと思ったかもしれない。もちろん、辰巳が比嘉にした諸々の所業がなければの話だ。  きつい締め付けに息を詰め、比嘉もそのまま辰巳の中に精を放つ。種付けされるのがどれほど屈辱的か教えてやりたくて、出したものを中に塗りつけるように、比嘉は容赦なく腰を動かした。 「あ、ぐ、うあ……っ」 「痛いか。気持ち悪いか。怖いか。忘れるなよ。俺は辰巳くんを許さない。てめえが蜂だろうが名家のガキだろうが知ったことか。いつか必ず、殺して食べてあげるからねぇ」 「……素敵、ですね」  うっとりとした声にも、眼差しにも、一切の嘘が感じられなかった。だからこそぞっとした。すがる辰巳の手を叩き落として蹴り付ける。辰巳の体に埋めていたものをずるりと抜き出し、比嘉はふらりと立ち上がった。 「比嘉さん? どこに……」 「付き合ってらんねえよ、いかれ野郎」 「比嘉さんっ、まって、置いていかないでください!」    辰巳の声は聞き流す。近くのシーツを拾い上げて巻き付ければ、とりあえずは裸ではなくなった。扉の外に飛び出す直前、背に何かが投げつけられる。振り返れば、辰巳のものらしき財布が落ちていた。律儀なことだ。蜂でさえなければ、騙して遊んでかわいがってやっただろうに。  無言で数枚万札を抜き取って、比嘉はくるりと踵を返す。 「比嘉さん」  扉が閉まる寸前、夢でも見ているかのような甘い声が比嘉の耳をくすぐった。 「悪夢を見たら、殺しに来てくださいね。待ってますから」 「死ね」  叩きつけるように扉を閉じて、比嘉は無我夢中で走り出した。
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