あなたのために巣を作る

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 頭を支えられ、そのまま床に押し倒される。今日の佐伯は積極的だ。堪えきれずににやついていると、咎めるように乳首を甘噛みされた。 「んっ、痛いよ」 「あのガキは、どんな風にお前を抱いた?」  おや、と思った。比嘉がどれだけ遊ぼうが、今まで佐伯に何かを言われたことはない。見上げれば、酩酊したように佐伯の目元が赤らんでいた。   「んふふ、やきもち焼いてくれるの? 珍しい。俺より血に酔ってるねぇ」 「聞いたことに答えろ」 「俺が抱いたとは思わない?」 「種付けされなきゃ卵を産むことにはならない」 「そりゃそうだ」  佐伯の舌が首筋を伝っていく。味見でもするようにゆっくりと、丹念に筋肉の筋に沿って唇を落とされると、これからこの人に抱かれるのだと強く感じて、たまらない気持ちになる。おまけに、佐伯も興奮していることが丸わかりの荒い息が耳元に聞こえるものだから、比嘉の方が我慢できなくなりそうだった。 「……ぁ、っく……どこもかしこも、舐められたよ。頭おかしくなりそうなくらい、丁寧で、飛びそうだったな。イかせんのが好きなのか、やたらとご奉仕してくれるから、きつかった」 「へえ。どこもかしこも感じるだらしのない体では、さぞつらかったことだろうよ」  自分で聞いたくせに、佐伯は比嘉の答えを受けて機嫌の悪そうな相槌を打つ。とうとう我慢できなくなって、げらげらと比嘉は笑い出した。 「何も知らなかった俺を仕込んだのは、どこの誰だろうねぇ? ガキに手を出した悪い大人でさあ、佐伯さんっていうんだよ」 「ここまで奔放になるなら、教えるんじゃなかった」 「佐伯さんが抱いてくれないから、他を当たる羽目になるんだよ。なぁんでいつも、一緒に食べてくれないの?」  脇腹と内腿を順々に甘噛みされる。そのまま勃ちあがったものを舐め上げられて、体が震えた。反射的に腰が引きそうになるけれど、佐伯はそれが気に入らないとばかりに強く比嘉の腰骨を抑える。弱い場所を直接舐られ、比嘉は声を上げて身悶えた。  佐伯の抱き方は少し乱暴だ。けれど、今はそれが好ましい。辰巳の手とは似ても似つかない性急さが、比嘉を正気でいさせてくれる。 「んん……っ、あ、やべ、止まって……、佐伯さんっ、出ちゃう」 「出せばいい」 「口に出したら怒るくせに」  込み上げる射精感を必死に受け流す。ぜえぜえと息をつく比嘉の顔を、佐伯は楽しそうに眺めていた。そういうエロい顔をされるとそれだけで出そうになるのでやめてほしい。想い人の前では、比嘉は童貞と同じなのだ。 「ねえ、なんで? 佐伯さんだって、蝶を食ったらこうなるんだろ。やりたくてやりたくて、たまらなくなるだろ。他のやつらじゃ付き合いきれない。俺とふたりで慰め合ったら完璧じゃん」 「だから嫌なんだ」  いつまでたっても、佐伯は肝心の場所には触れてくれない。もどかしさをぶつけるように、比嘉は佐伯の体に手を伸ばした。やられたことをやり返すように、後頭部に手を回して引き寄せる。佐伯は抵抗しなかった。髪を引っ張り、むき出しになった佐伯の首筋に歯を立てる。思わずと言ったように漏れる吐息が、比嘉を煽った。 「嫌って?」 「全部、どうでもよくなる……っ、後始末も忘れて、お前しか見えなくなるから」  胸を撃ち抜かれる心地がした。今日の佐伯は、やはりとてもガードがゆるい。素直でない人の素直な言葉は、どうしてこんなにも甘く感じるのだろうか。ごろごろ転がりたくなるくらい嬉しかった。 「ふ、あはっ! 嫌いだもんねぇ、佐伯さん。余裕がなくなるの、怖いんだぁ? 今日くらいはいいだろ? この蝶が消えるまで、今夜はだぁれも帰ってこないんだからさ」 「それは……」 「さわってよ、佐伯さん」  唇を合わせて、必死に誘う。必死すぎて我ながら見苦しいとは思ったけれど、それくらい比嘉も余裕がなかった。腰をすりつけるように動かせば、ようやく佐伯の手が比嘉の後孔に触れる。 「あ……?」  嬉しいはずなのに、ぞわりと嫌な感覚が体を満たす。それを察したかのように、ぴたりと佐伯は動きを止めた。このポンコツの体め、と内心で比嘉はわめき散らす。 「怖いか」 「ま、さか……、からだが、おかしい、だけ」  みっともなく声が震えていた。辰巳から逃げてきて以来、誰かに抱かれるのはこれが初めてだ。慣れきったことのはずなのに、そこに触れられると卵を産まされた恐怖が嫌でもよみがえる。どうやって力を抜くのかも忘れた比嘉を慰めるように、佐伯はその場所から手を離した。
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