83人が本棚に入れています
本棚に追加
「やだっ、やめないで」
「怖いなら、無理をすることもない。熱を発散するだけなら、わざわざ後ろを使わなくたって、方法なんていくらでもある」
「俺はやりたいんだって。佐伯さんと! ぐっちゃぐちゃにやりてぇの!」
そうわがままを言えば、思案するように佐伯は目を伏せた。半裸の状態でそういう思い悩むような顔をされると、壮絶な色気がある。押し倒したくなるので、比嘉にもう少し配慮してほしい。
そんな自分勝手なことを考えていると、とんでもない言葉が上から降ってきた。
「抱かせてやろうか」
「えっ!」
一も二もなく頷きたくなるくらい魅力的な申し出だった。佐伯が比嘉に身を任せてくれたことはない。ずっと機会がないかと狙ってきた。この冷たい眼差しを乱してやったらどれほど気分がいいだろう。
けれど、少し考えて、比嘉はふるふると首を横に振った。
「今は、佐伯さんに抱いて欲しいな。うんと気持ちよくして、上書きしてよ」
佐伯を思い切り感じるのなら、抱くよりは抱かれたい気分だった。音を立てて口づければ、佐伯は苦笑しながら口付けを深めてくる。
「最初に抱いたときみたいに?」
「そうだよ。いたいけな俺を食ったときみたいに、処女だと思って、優しく抱いてよ。簡単だろ?」
「お前がそう望むなら」
血溜まりの中で、手を伸ばし合う。よみがえる記憶に比嘉が体を強張らせるたび、佐伯は根気強く宥めてくれた。中を広げる指が一本ずつ増やされるたび、比嘉はすすり泣くような声を上げる。
「あ……、ぁ……っん……」
「痛いか」
「ちがうって、きもちい……」
わけが分からなくなると怖いと言ったからか、暴れたくなるほど丁寧に、佐伯は比嘉の体を開いていった。処女だと思えとたしかに比嘉はそう言った。そうは言っても限度がある。もともと大して慣らさずに突っ込まれても感じるほどに敏感な体に、雪が降り積もるような触れ方をされれば、ぐだぐだに溶けるのは見えていた結末だ。
「あああぁ! い、あァ!」
「理仁」
「さえきさん、すきぃ……ん、うぅ!」
繋がるまでが永遠に思えるほど長かった。入れられるだけで、体がびくびくと震えて止まらない。奥の奥まで上書きして欲しくて足を開けば、その分だけ佐伯は深く自身を埋め込んでくれた。
「すき、すき……っ、佐伯さん、気持ちいいっ」
「……知ってる」
相変わらず言葉はつれない。それなのに、比嘉を見る目も、触れる手も、言葉以上に雄弁だった。背に腕を回され、すがるように抱きしめられる。興奮に目を潤ませて、肩で息をする佐伯の姿に胸が締め付けられた。
「おれ、に」
「うん?」
「蜂からの依頼書を渡したとき、佐伯さん、何考えてたの?」
ほとんど腰を動かすこともなく、静かに、痺れるような快楽を分かち合う。理性が飛びそうなほど興奮しているというのに、あえてそんな繋がり方をすることに、言いようもなく気持ちが昂った。ごちそうを前におあずけを食らわされているときのような、我慢すれば我慢した分だけ、後が良くなると知っているからこその贅沢だ。
「死ねばいいと思った」
あんまりな言葉に、ぽかんと比嘉は口を開ける。けれど続く言葉に、違う意味で呆気に取られることになった
「今さら俺から離れて生きようとするのなら、惨たらしく苦しんで死ねばいい……っ」
自分が何を言っているのか、佐伯は理解しているのだろうか。熱に浮かされた目で告げられる、この上なく身勝手な愛を、比嘉は唇を歪めて受け止める。
「素直に好きだから一緒にいてって言ってくれればいいのにさぁ。ダメな大人だ」
「幻滅したか」
「それこそ今さらだよ。佐伯さんが寂しがりなのは、ずーっと前から知ってるよ。俺を拾ってくれたとき、笑ってたもん。自分で気づいてなかった?」
伸び上がり、佐伯の頭を抱え込む。頬を撫で、うっとりと微笑みかければ、佐伯もまた、泣きそうな顔で笑ってくれた。
腰を揺らして催促すると、ゆっくりと律動が始まる。血の香りに包まれ、ねだった分だけ与えられる快楽は、控えめに言っても最高だった。媚びた声をあげて、あなたがいなければ生きていけないのだとうそぶいてみせる。焦らされ続けた衝動がおさまるまで、比嘉は思う存分、佐伯に甘え倒した。
最初のコメントを投稿しよう!