あなたのために巣を作る

7/21

81人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 ホームシアターというのはいいものだ。  壁一面に映画が投影される。ソファーにだらりと座り込んで、菓子と酒をつまんだって誰にも何も言われない。映画の最中にタイムリーな感想を言い合えるのもたまらない。   「いや、マジで面白かった!」 「二作目とはかなり趣きが変わっていましたね」 「そうかな? でも、雰囲気はやっぱりあの監督の話だなーって感じじゃね? ばって音楽が止まったと思ったら、ぐわーってくるだろ。あれが俺、大好き」 「たしかに。……比嘉さんと見ると、楽しいですね。感覚的な感想が多いのかな。比嘉さん、僕が自分じゃ見ないところをよく見ているから、二倍映画が面白くなります」  肩がぶつかるほど距離が近いというのに、そんなことはもう気にもならなくなっていた。腹は満ち、酔いも回り、気分は最高にご機嫌だ。いつしか手を握られていることにも気付かないまま、比嘉はからからと笑って同意した。 「俺も楽しいよ。来てよかった。誘ってくれてありがとうねぇ、辰巳くん」 「こちらこそ。比嘉さんと仲良くなれて嬉しいです」  指先が絡み合う。邪気のない顔に、ほんのわずかな艶が混じった。 「もっと仲良くなれたら、嬉しいんですけど」 「んん? 俺、誘われてるのかなぁ?」  返事を返す代わりか、辰巳はそっと眼鏡を外す。比嘉が笑って目を伏せると、すぐに唇が重なった。  拒否しようという気にはならなかった。蝶を食べた後に欲がおさまらず、その辺の人間を捕まえて足を開くことはしょっちゅうだ。個人的には女性の方が好きだけれど、興奮に突き動かされているときに相手にするなら、体力のある男相手の方が長く楽しめる。そもそも佐伯に仕込まれて以来、男と寝た回数も人数も、いちいち数えていなかった。  まあいいか。そんな軽い気持ちで、粘膜を合わせる。絡ませた舌からは、どこか苦い味がした。辰巳はビールを飲んでいたから、そのせいだろうか。 「……辰巳くん、男もいけるの?」     指を深く絡ませながら、比嘉は内緒話をするように問いかける。   「男も、というか、男しか、ですね」 「ふうん。そうなんだ」 「引きますか?」 「別にぃ。ネコ? タチ? どっち好き?」  恥じらうように目を伏せて、辰巳は「抱きたいです」と控えめに主張した。物慣れない感じは、なかなかそそるものがある。にこりと笑って、比嘉は辰巳に抱きついた。 「いいよ、しよっか」 「いいんですか? 酔っていません?」  言葉の割には、辰巳はためらいなく比嘉の胸元に手を添えてくる。覆いかぶさってくる男の首に手を回しながら、比嘉は「んーん」と甘えるように言った。 「付き合ってくださいって言われたら困るけど、寝るのはいいよ。俺、辰巳くんのこと、好きだし。ヤるのも好き」 「僕も比嘉さんが好きですよ。……かわいいけど、心配だなあ」 「んー? 軽いかな?」 「いいえ。そんなところも魅力的ですよ。……今はね」     頭がぼんやりとしていた。心なしか手足がぴりぴりと痺れる。酒のせいだけではないと気づいたときには、深く唇が重なっていた。呼吸まで奪われそうなほど、激しい口付けだった。キスだけで勃つほど濃厚で、優しく、癖になりそうなほどしっくりとくる。唾液を飲み込むたびに、体が重くなっていくような気がした。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

81人が本棚に入れています
本棚に追加