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ホームシアターというのはいいものだ。
壁一面に映画が投影される。ソファーにだらりと座り込んで、菓子と酒をつまんだって誰にも何も言われない。映画の最中にタイムリーな感想を言い合えるのもたまらない。
「いや、マジで面白かった!」
「二作目とはかなり趣きが変わっていましたね」
「そうかな? でも、雰囲気はやっぱりあの監督の話だなーって感じじゃね? ばって音楽が止まったと思ったら、ぐわーってくるだろ。あれが俺、大好き」
「たしかに。……比嘉さんと見ると、楽しいですね。感覚的な感想が多いのかな。比嘉さん、僕が自分じゃ見ないところをよく見ているから、二倍映画が面白くなります」
肩がぶつかるほど距離が近いというのに、そんなことはもう気にもならなくなっていた。腹は満ち、酔いも回り、気分は最高にご機嫌だ。いつしか手を握られていることにも気付かないまま、比嘉はからからと笑って同意した。
「俺も楽しいよ。来てよかった。誘ってくれてありがとうねぇ、辰巳くん」
「こちらこそ。比嘉さんと仲良くなれて嬉しいです」
指先が絡み合う。邪気のない顔に、ほんのわずかな艶が混じった。
「もっと仲良くなれたら、嬉しいんですけど」
「んん? 俺、誘われてるのかなぁ?」
返事を返す代わりか、辰巳はそっと眼鏡を外す。比嘉が笑って目を伏せると、すぐに唇が重なった。
拒否しようという気にはならなかった。蝶を食べた後に欲がおさまらず、その辺の人間を捕まえて足を開くことはしょっちゅうだ。個人的には女性の方が好きだけれど、興奮に突き動かされているときに相手にするなら、体力のある男相手の方が長く楽しめる。そもそも佐伯に仕込まれて以来、男と寝た回数も人数も、いちいち数えていなかった。
まあいいか。そんな軽い気持ちで、粘膜を合わせる。絡ませた舌からは、どこか苦い味がした。辰巳はビールを飲んでいたから、そのせいだろうか。
「……辰巳くん、男もいけるの?」
指を深く絡ませながら、比嘉は内緒話をするように問いかける。
「男も、というか、男しか、ですね」
「ふうん。そうなんだ」
「引きますか?」
「別にぃ。ネコ? タチ? どっち好き?」
恥じらうように目を伏せて、辰巳は「抱きたいです」と控えめに主張した。物慣れない感じは、なかなかそそるものがある。にこりと笑って、比嘉は辰巳に抱きついた。
「いいよ、しよっか」
「いいんですか? 酔っていません?」
言葉の割には、辰巳はためらいなく比嘉の胸元に手を添えてくる。覆いかぶさってくる男の首に手を回しながら、比嘉は「んーん」と甘えるように言った。
「付き合ってくださいって言われたら困るけど、寝るのはいいよ。俺、辰巳くんのこと、好きだし。ヤるのも好き」
「僕も比嘉さんが好きですよ。……かわいいけど、心配だなあ」
「んー? 軽いかな?」
「いいえ。そんなところも魅力的ですよ。……今はね」
頭がぼんやりとしていた。心なしか手足がぴりぴりと痺れる。酒のせいだけではないと気づいたときには、深く唇が重なっていた。呼吸まで奪われそうなほど、激しい口付けだった。キスだけで勃つほど濃厚で、優しく、癖になりそうなほどしっくりとくる。唾液を飲み込むたびに、体が重くなっていくような気がした。
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