6人が本棚に入れています
本棚に追加
Ⅱ ~戴天~
窓の外には、都市部で過ごしてきた私にとっては見慣れない森が広がっていた。
空には排気ガスでくすんだ空ではなく、それはそれは美しい快晴。
上空の海はもはや別世界を彷彿とさせる。
実際に別世界なのだが。
私こと東雲青華……否。ニゲラ・ヴァイスピール。6歳。
吸血族のなかでちょっと位の高い程度の家柄のヴァイスピール家。その当主の次女として生まれたのが私ことニゲラ。
この世界に生えている花の名前から取ったらしい。
地球ならキラキラネームとかと呼ばれるが、ここでは普通なことだそうだ。
実の家族とともに団欒を楽しむのはいつぶりだろうか。
私が就職したら家に帰れないことが多くなってその上兄は持病が悪化してその治療費を払うためにもっと忙しく……。
……やめよう。これ以上考えてももう戻れない過去の話だし、前世から逃げ出したくてここにいるのに前世を思いだしたら本末転倒だ。
「どうした、ニゲラ。外に珍しい生物でもいたか?」
「ううん、いないよ。ただただ森を眺めていただけ」
我ながら”森を眺めていただけ”は結構不審な行為なのだが、私の父……モータス・ヴァイスピールは娘に惚気ているため、
「そうか、森に見惚れてたか……。弱冠6歳にしてそんな感性が沸いているとは……」
こうだ。
私が少しおかしなことを言おうとも全てを信じ込んでしまうのが私の父なのだ。
将来私に関するオレオレ詐欺的なものに会ったときが心配である。
「そういえば……明日は私の力を知れる日だよね?」
「あぁそうだな。俺の娘だ。この国の重鎮にも引けを取らない力と才能があるに違いない……っ!」
「あはは……すごい自信だね、お父さん」
一体何をもってそんな自信を持つことができるのだろうか。ある意味尊敬するべきなのかもしれない、私の父を。
私には姉がいる。
それはアイビー・ヴァイスピール。長女だ。
私より7年早く生まれたため、現在14歳。
現在真っ只中で魔法学校に通っている。適性は三種魔属性で、火と水、そして闇だそうだ。
ゼウスから魔法の属性を聞いていなかったから何があって何がないのかが全く分からないからよいのか悪いのかはわからない。
だが、強さは学校内で一線級らしく、毎回成績は良いらしい。
頭の出来の悪い昔の私とは大違いだ。
そんな姉だが、少々問題のある人でもある。
その問題とは―――。
「我が妹よー!今日も可愛いのー……」
「ふにゅっ!?」
シスコン過ぎる。この一言に尽きる。
父の血を受け継いだのが顕著にわかるようなこの惨状。悪い気はしないがいかんせんスキップが激しいこと。
自分が女であることを忘れている気がする。
危ない人にたぶらかされそうでこちらも心配である。
「お、お姉ちゃん……」
「ん、どうしたー?」
「そういえばなんだけどさ、三種魔属性って一般的にすごいの?それとも普通なの?」
「うーん……私の通ってる一般魔法学校であればこれだけあれば十分強い判定だね。そもそも普通は1個か2個だけだもん」
「じゃあ……その属性って何個ぐらいあるの?」
「確か……20個ぐらいだったかな」
本来なら全部知っているはずだが、今初めて聞いた。
そうか、20個もあるのか……。それで適性は3個あれば十分……。
「……一般じゃない学校は最高でどれくらいなの」
「え、特色魔法学校のこと?あそこは最低でも五種魔属性、歴代最高は十一種魔属性だったね」
「あ……ありがとう。教えてくれて」
私は面倒くさがりだ。
それゆえにちょっとしたミスをよくする。
仕事でも誤字脱字はよくして上司に叱られた。
そして今私は、
その面倒くさがりという性格を初めて後悔した。
最初のコメントを投稿しよう!