*最後の楽園*

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 水びたしの道をばしゃばしゃと走り、フジツボの付いた梯を登って小屋に転がり込む。人混みを搔き分け、ネクトンは目を丸くした。ベッドにぐったりとした男性が横たわっている。 「水を飲まないと死んでしまいますよ」  コップを差し出されても、首を横に振るばかりで口をつけようとしない。体は痩せていて、目は虚ろだった。全てを諦めたような表情だった。 「お前さんはどこから来たんだい」  長老が問いかける。男性はしわがれた声で、こう答えた。 「北の島から来ました」  彼は語った。 「その土地は、七色に輝いています。戦争のない、平和な場所です。食べ物も、飲み物もたくさんあります。海の水かさがどんなに増えても、沈むことはありません」 「そんな場所が、本当にあるのかい」  驚く長老に、彼は弱々しく頷いた。 「確かにあります。その島の名は――」  言いかけて、彼は息絶えてしまった。
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