*最後の楽園*

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 夜になり、潮が満ちた。小屋の床下まで海水に浸かっている。梯の周りをネムリブカが泳いでいた。 「沈まない土地なんてあるはずがない!」  老若男女の寄合で、一人が声を上げた。 「天気が暖かくなって、周りの島々はどんどん海に浸かってるんだぞ。そんな夢みたいな場所、浮島でもない限りありうるもんか。そもそも、この北に島なんてない。あの人は、本当は大陸から逃げて来たんじゃないか」  地図を広げて見せる。確かに、彼の指す場所には暗礁一つ見当らなかった。 「七色の島はありますよ!」  前のめりになって、別の一人が反論する。 「あの人の舟を見なかったんですか。あんなにちっぽけな(いかだ)では、ここへ来る前に沈んでしまったはずです。近くにきっと、海底火山で新しい島ができたのでしょう。彼はそこに立ち寄ったんですよ」 「長老、あなたはどうお考えですか」  意見を求められて、彼女は長い唸り声のあとに答えた。 「そんな場所が本当にあるのか、私にも分らないよ。ただ、一つだけ確かなことがある。この島が、いずれ海に沈むということだ」
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