あなたが欲しい

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 妖艶たる桜が二月下旬に一斉に咲き乱れた年、俺はこの世に生まれ落ち、母はあの世へ還った。俺を身籠る前、母は桜の花を食べたいほど愛していたそうだが、俺に養分を吸いつくされるように弱っていく中で、桜に対して恐れを抱くようになったらしい。 「お願い、お願い、連れて行かないで」  そんなうわごとを繰り返しながら怯えていたが、俺が生まれる日は、なぜか桜の花びらを口に含み、笑みを浮かべて息絶えた。  それを見た父は桜を忌み嫌うようになり、母の希望で庭に植えていた桜の木を切り倒した。すると、その切り株から人の血のような樹液が噴き出したらしいのだが、実際に目にしたわけではないため、真偽のほどは分からない。  ただ、その時から俺の全身を覆うように奇妙な痣が浮かび上がった。桜の枝そのものの形をしたその痣は、毎年桜の季節には花を咲かせ、俺の体を我が物にせんと締め付ける。 「お前のものにはならないよ」  俺が桜の痣を鏡越しに睨みながら呟けば、一層強く締め付けられ、白く意識が霞んだ。
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