「2024/2/15[二人の教室]」

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「2024/2/15[二人の教室]」

 シャア……  あの災厄の日の、完全な影響を辛うじて免れた、この茜色の学舎、教室。 「……」 「……」  強い夕陽を、割れた窓ガラスから受けている、この荒れた、すでに廃校が決まった教室の中で。 「……」 「……」  ひたすら、お互いに。 「……」 「……」  すでに、もはや更新はされない、絶対にされなくなった、ゲームを。 「……私の勝ち、小田切君」 「……う、うん、新宮さん」  あの日、僕が家族を失った日に見た彼女「新宮神楽」さんと。 「……ねえ?」 「ん?」  夕焼けの、眩しい明かりの中で。 「何、新宮さん?」  オレンジ色に染まった、この二人だけの教室で。 「……その、あの」  黙々と、動かす。 「あの一年前の日、それの」 「……?」 「半年後、だったわよね?」 「……!!」 「小田切君の」 ――月の夜空に浮かぶ、焔の羽根の女の子――  その、この目の前の彼女を、家族を業火に叩き込んだ、その張本人だと思い。 「渾身のパンチ」 「あうっ!?」 「……あの時は」 「あ、あうあう……!!」  無謀にも、ただの「高校生」であった僕が。 ――お前の、せいだ!!――  と、彼女に、憎しみを込めて、思いっきり、殴り掛かった時。 「……痛かったんだから」 「あうあう、あうあぁう!!」 「……女の子の顔を殴るなんて」 「ご、ごめごめごめ、ごめんなさい!!」 「最低」 「ひ、ヒィ!?」  世の中が「換わった」日からは一年、その前日に彼女がくれた「バレンタインチョコ」の。 「ごめんなさい、ごめんなさいィ、新宮さん!!」 「ゲス、最悪、最低、クズ男」 「……ホントウ二、ゴメンナサイ!!」  嫌な、実に不誠実な「お返し」を行った日からは、すでに半年。 ――……ああ、もう――  そんな事があれば、当然彼女との距離は、より深く縮まる事は、それこそ。 ――義理チョコから始まる、彼女彼氏なんて、期待出来ない、よなぁ――  という、失望と共に、僕の心の中で吐いた。 ――……ハァ――  あきらめに満ちた、重い溜め息とは別に、少しだけ。 「あ、あの新宮さん!!」 「……」  もう少しだけ、勇気を出して、声を上げたが。 「……なによ、DV男?」 「……ひっ!?」  うわー!! もうだめだー!! ――おしまいだぁー!!――  でも、しかし、僕は!! 「こここ、これ!!」 「……」  往生際が、悪いのかもしれないが、会話をしたい!! 「見て、これを!!」 「……」  義理チョコから始まる、愛を信じたい!! 「見て見てよ、新宮さん!!」  と、まくし立てて、僕が携帯ゲームの画像に、映し出したのは。 ――獅子王メガ・アレキサンダーEX――  このゲームに課金無しの僕が、このキャラを手に入れたのは、本当に幸運だったとしか、言いようがない。 「……決して、ランクの割には、最強ではないけど!!」 「……へえ」  あう、だめだ無反応だ!! 「……?」  だが、彼女はその無表情のまま、自分の細く、しなやかな指を。 ――……最初から思ってたけど、ずいぶん手慣れた、指の動きだな?――  軽く、自分のゲーム画面にスライドさせた。 「……あっ!?」  その、彼女のゲーム画面のトップにいる、女性キャラ。 「きゅ、救世の花嫁!?」 「……これ、解るわよね?」 「も、もちろん!!」  正直、相当の課金、そして。 「……あの、いつからこのゲーム、やってるの?」 「……さあ?」  時間を掛けなければ手に入らない、最上級のキャラクターだ。 「……まあ他に、私は」  と、彼女は軽く、己の長い黒髪を、その手のひらで撫でつつ。 「お金を使う、事もなかったから」  と、事もなげに、言い放つ。 「……」  そして、僕が。 ――……ウワァ――  僕が覗き見た、彼女のゲーム画面に表示される、その様々な「数値」 「焔の灰燼、灰課金の……」 「何か言った?」 「いやいやいや、いや!!」  正直、ここまでこのゲームをやりこんでいる人は、今まで見たことがなかった…… 「……仕方が無い、ならば」 「獅子王では勝てないわよ?」 「……解ってるけど、救世の花嫁には、到底勝てないけど、しかし!!」 「セカンドキャラでも、相手出来るけど?」 「えっ、そう?」 「これ」  その、彼女がゲーム画面をスライドさせて、見せたセカンドキャラ。 ――ギャー!!――  ま、まあいい、救世の花嫁よりはマシだ。 「……この獅子王では、新宮さんのセカンドとの勝率は、だいたい三割ほどか」 「ねえ、小田切君?」  ジャア、ン!!  あっ、いきなり獅子王がワンパンされ、大火力で燃え尽きた…… 「獅子王、結構鍛えているみたいだけど」 「えっ、ああ……?」  なるほど、よく見ているな。 「小田切君の、このゲームの」  やはり、このゲームを知り尽くしているのか、彼女は…… 「画面を見る限り、他にも良いキャラがいるみたいだけど?」 「まあ、単純な能力なら、確かにそうだけど……」 「……推し?」 「……うん」  獅子王。 「このね、この獅子王は、ね……!!」  このゲーム内の設定では、まさに覇王にして王者、僕の最大の推しキャラ。 「この、この獅子王はね!!」  自我共に認める、陰キャラである僕、その早口は嫌われるとは知っているけど。 「昔、古代に実在した!!」  せっかく僕に、少しは好意をもってくれている、はずの彼女だから、だからさ!! 「ある、実在の人物の……!!」 「……」  あれ? 「え、英雄王であって、あって……」 「……」 ……やはり、少し色々な意味で、ガツガツし過ぎたかな? 「……それで、小田切君?」 ――……ああ――  彼女の目が、教室の夕陽の暖かさを溶かすほど、冷たい……
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