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佳代乃さんとは一度見合いをしたが、僕の方からお断りしてしまったからな。
まだ仕事も学びも貪欲に追求したくて断った。
署に長居するワケにもいかないので、今ある情報を持ち帰ることにした。
そして今車の中で、僕なりに情報を整理している。
神田はこういう時は絶対に口を開かない。
黙って僕の考えを汲んでくれる、若いながらもいい執事だ。
「佳代乃さん…笹丘 百合子(ササオカ ユリコ)さん…」
事件のことを考えている時に、誘拐された佳代乃さんを思い浮かべた時に、何故か百合子さんの顔と重なる。
百合子さんとは、僕の父が親しくしていて、和服の似合う楚々とした人だ。
少し憂いのある女性で、僕は子供ながらに美しい女性だと、異性という意味で意識した人だった。
淡い想いだったと今は笑える。
そう言えば、佳代乃さんは何となく百合子さんに顔立ちが似ている気がする。
他人の空似だろうか?
「直道様、夜桜見物としゃれ込みませんか?暗闇の中なら、真実を語ってくれるかもしれませんよ?」
「"桜の樹の下には死体がある"…。岩橋殿の持つ土地なら、あの桜の樹の場所しかないものな」
神田が思考の海に沈みそうになる僕を現実に引き戻す。
神田はいつも絶妙なタイミングで、僕を我に返らせる天才だ。
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