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つまり青年が1番歳が近いため彼と間違えられて連れていかれたのだろう、あの様子では他の男も力加減が出来ない鬼によって握りつぶされ死んだと予想される。
人骨と思われる骨をみるとどれも背骨と肋骨が折れているものが多い
この手の鬼は送ろうと言葉をかけても最早何も分かることはなくただ欲望に従って人を殺して喰う為、隆文や喰姫のように殺して黄泉へ送る他ないだろうが喰姫は問題ないが隆文は霊力があるとは言えただの人に過ぎない。
「送るのは諦めて小細工でもしましょうか」
白無垢を手に取り破く、頭蓋骨を数個床に並べ破いた白無垢の布を被せると血をその頭蓋骨の額に数滴垂らすと血を垂らした場所から黒い霧が上がりその黒い霧から白無垢を着た骸が出てきた。
白無垢も骸も基盤となるモノに幻影を足しただけのものだったが私にしてはよく出来たと良元は顎に手を当て唸った。
男達の持ち物だろうと思われる刀や薙刀が無造作に捨ててある、その1本を手に取り刃をみると手入れもされず雨風に当たっていたのか錆びていた
「……なまくらばかり…おっと…これはいい」
骸にひとつずつ持たせ自分は比較的切れ味のいい刀を手に取ると良元も白無垢の布切れで骸と同じように白無垢の幻影を作った
「ふふっ…こんなに花嫁が沢山いる光景をみると狐の嫁入りのようですね…全て花嫁ですけども」
くすくすと笑えば周りの骸達も顎をカタカタと鳴らす
鬼目で隆文達の状況をみると馬鹿力の鬼に苦戦している様子が見て取れる、目となる蝶を潰される前にたどり着ければ上々であるだろうと良元は歩き始めると骸もガチャガチャと音を立てながら練り歩く
─────しばらく歩き続けると埃が舞い始めたのか喉が少し痛くなってきて袖を口に当て目を細めながら進むと、長い腕に翻弄される隆文達が見えてきた。
大きな刀を使い鬼の爪を流しその間に喰姫が反対の腕に噛み付くもののすぐさま腕を振るいたたき落とされる、強く噛み付く前に振り落とされているようで鬼の腕には傷ひとつ付いていない。
その奥で瓦礫と共に横たわっている青年は終始ぐったりとしていて動く気配は無い、死んではいないがあれだけ叩きつけられたのだから骨は折れているだろう、あのままじっとしておけば問題ない筈だ。
良元が刀を鬼に向けると複数いる骸の内の一体が大きな薙刀を引き摺りながら鬼に近づいていく、鬼は彼が来てくれたとまた勘違いをしているようで骸を包みこもうと手を伸ばすと骸はその指をひとつ引き落とした。
手首や首は普通の人間よりも太くて硬いため切り落とす事は出来ないが指の関節にさえ刃が入れば指くらいならなまくらでも落とせる。
痛みに悶えた鬼は骸を頭から食らうとその頭蓋骨を砕き、砕かれた骸は霧のように消えていくのを見て二体目三体目と行くように指示を出す。
誰が話しているかを悟られぬよう顔を隠しあの鬼を責め立てるような言葉を言う
「なぜ一緒に黄泉へと行ってくれないのですか?」
「なぜ後を追ってくれないのですか?」
骸が一体一体腕にへばり着く度に責めると振り払う力も段々と弱まっていく…
「ずっと一緒にいると言ってくれたのは嘘だったのですか?」
白無垢から読み取った記憶を元に槍のような言葉を刺していく。鬼からすれば愛する彼から言葉の刃を突きつけられているような状態であろう
骸達がしがみついた手を耳に当て頭を振るい終いの果てには聞く耳も持たず骸を破壊する暴君と化した。
骸に集中している鬼の隙を狙い隆文は左腕を切り落とすと地響きのような野太い悲鳴がその鬼から発せられビリビリと空気を揺らした。
切り落とされた腕は再生せぬよう喰姫が食らい切れた傷口から少しずつ肉をちぎり取る。
次々に骸は壊れていき残りは白無垢を着たように見せている良元だけである。鬼は最後の一人を潰そうと掲げた右腕を急に横に振り払うと、想定していなかった動きに当たるのを覚悟した良元は何かに引っ張られたかのように後ろに傾きその手を躱した。
一瞬怪訝な表情をしたが振り払った後の隙を好機と見て刀を鬼の手の甲に突き刺しそのまま壁に縫いつけたのだ
「隆文!!」
「分かってる!!」
隆文の鬼切の刀を持つ手に力が入り、この一刀で腕を断ち切るつもりなのが見て取れる。
目の前で鬼の右腕も切り落とされ血飛沫が良元にかかると思った瞬間、また見えない何かに引っ張られ良元は結果的に血を躱す事が出来た。
引っ張られた袖を見てみるもそこには誰も居ないが血を大量に浴びるのを防げただけ良しとしよう……特に深く気にする程でもない、と心で呟き忘れることにした。
目の前には両腕が落とされ、それでも口で白無垢の裾を必死で掴もうとする鬼がいた。
両頬を優しく包み良元は穏やかな笑みを浮かべながら「さぁ、彼の元へ行きましょう」と言うと鬼は静かに涙を流す。
そっと手を離すと波に呑まれるように黒い髪の渦が鬼を呑み込んでいき次第に花の蕾のような形になり、そのまま沼に沈むように消えていったのだった。
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