9人が本棚に入れています
本棚に追加
「そんで……どんな想いだったんだ?」
「あ、聞きたいんですか…?」
不思議そうな顔で隆文をみると頭をかきながら「そりゃ気になるだろ」と顔を顰めた。
喰姫は青年の体を必要以上に刺激しないようそっと髪の毛で抱えると、すかさず良元が青年を抱えた。
気絶をしているようで、ピクリとも動かないものの息は正常である為そこまで心配する程でもないようだ。
「恐らく流行病で子供たちが次々と亡くなったんだと思います。それで薬を何度も何度も買いに来ていて、ちょうど真夜中にあの僧が愛していた1人の少年が倒れてしまったのでしょう。」
他の子供たちの看病に追われ食事もきちんと取ってはいなかった。
「運悪くちょうど薬も切らしていて少年は夜遅くだから朝早くに薬を貰いにいけばいいと言っていたみたいなのですが、その翌日の朝に息を引き取っていたのです。真夜中でも薬を貰いに行けば間に合ったのかもしれないと強く後悔したのがあの残穢です」
しかし薬を貰ってもあの少年は助からなかっただろうと良元は思っていた、人が良すぎる少年は他の子供たちを優先して自分を疎かにしすぎてしまった、少年の症状は随分と前から来ていたのだろう。
「嘆いた僧は少年が死んだ後もその死体を愛で
助かった子供たちは哀しむ僧をそっとしておいた……それがいけなかったのです」
ひとりにさせておくべきでは無かった。
「少年を愛するあまり死体を食らい、自らも病にかかりじわじわと死に近づいて行き
そして自分が死んだ事も気付かずに想い人となったのでしょう。」
僧が死んだということも気づかない子供たちはひとりひとりと少年の代わりとして扱われ死んだら食われた。
そうして少年に執着する鬼に変わったのだ。
「想い人になる前に人を食ったのか…」
「きっとこの鬼にとっては食べる事も愛情のひとつとして捉えてしまったのでは無いかと思います。」
喰姫を撫でながら隆文は深いため息を吐く
喰姫は何も分からないが隆文が落ち込んでいると認識し優しく背中をぽんぽんと慰めるように叩いた
彼女を鬼にせぬように細心の注意を払っている隆文は愛情のかけ方で鬼へと変化させないように聞きたかったのだろう
「長らく生きたと言うべきか存在したと言うべきか分かりませんが想い人が人のように考えて話す前例があります。気長にいきましょう」
隆文は少し元気が出たようで喰姫の頬をそっと撫でる、血縁というものはそんなに大切な物なのだろうかと頭の中で考えたが自分には分からない感情だと深く考えることを止めた。
「坊主は大丈夫か…?ぼっこぼこにされてたみたいだが…」
良元が抱える青年を心配そうに覗き込むと顔中血まみれの青年がうんうんと唸る、すこし考えた末良元が目の前にある血まみれの顔をべろりと舐めると「おぉい!!何やってんだ馬鹿!!!」と慌てて喰姫の目を隠した。
「いえ……彼の血か別の人間の血か調べようかと……どうも匂いが違うので……」
「犬か!?お前は!!!」
ちらりと良元が喰姫をみると隆文はこいつは例外だと言わんばかりの目付きをした後信じ難いといった顔で良元を見るが良元は何処吹く風といった感じで左目の上にある角をじっと見た。
何も変化は無い
「鬼の血みたいですね。恐らくこの血を飲んだ人間は鬼の傀儡となるのでしょう」
血を媒介にして人を傀儡のように操るのは別に珍しくもない話だ、とつまらなさそうに言う
良元は血以前に肉を取り込んでいるものの、良元に肉を植え込んだ鬼は傀儡にする能力は無いのだろう…むしろ鬼の力の一欠片を使える程度には馴染んでいる。
この血を飲んだからといって鬼になることはそうそう無い、自由を奪われるくらいなので青年が飲んでも問題はなかった。
「白無垢なのはあれか?好きな人を自分の意思で潰させる為か?」
「えぇ、そうしたらどんどん錯乱して白無垢を潰す事しか頭に残らなくなりますからね。」
「鬼かお前」
ジト目で良元を見ると良元はにっこりと笑う、畜生のような事をしている自覚はあるようだ。
最初のコメントを投稿しよう!