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「お前……あレだろ?…良元のおとこだろ?」
「違う!!!違うから!!」
嘘つくなよォとへらへらと焦点の合わない目で笑いながら腹の上に乗ったと思ったら、ふらりと急に倒れ込んできたのだ…どうやら攻防の末眠気に負けたらしく胸元で涎を垂らしながら寝ていた。
肩で息をしながら青年はやっと安堵の表情を浮かべ、その後に来た撫子が男の首根っこを掴みながらつまみ出したのだった。
撫子の後ろからひょっこりと顔を出してやれやれといった雰囲気を醸し出す隆文に怪訝な表情をしながら青年は話しかけた。
「隆文さん……あの人結局なんだったんだ?」
「屋敷の問題児『未染』頭の息子だよ」
はだけた服を直しながら襲われなくて良かったなと呟かれ顔中の血の気が引いた、やはりあれは抵抗しなければ襲われていたのだ。
「血なまぐさいものと酒とああいうのが好物の頭がイカれた野郎だ、実力は文句ねぇんだが暴れようが不味いんだ」
あの未染という男が撫子の息子というのが信じられなくて隆文を見るが黙って首を横に振るのを見ると納得はしたくないが確かなようだ。
「あいつの喧嘩はよく死人が出てないなって言いたいぐらいでな、今日は特別機嫌が良かったみたいだな」
「ぇ……」
今日はたまたま機嫌が良かったから違う意味で襲われかけたのかと身震いすると隆文は笑いながら布団を被せた
「まぁ今日は酔っ払ってただけだし、もう来ないだろう」
安心しろと言いたげに青年は頭を撫でくり回された。そして───────
次の日も同じようにあの未染という男が寝ていた
「いや、なんで……?」
今日は酒臭く無いためしらふの状態で布団に潜り込んでいる。相変わらず服は着ておらず前日同様脱いだであろう服が見当たらない
抱きついたままの腰は動かせない為青年は動けないままふて寝することしか出来ない。
それから何日も同じ状態が続き、稀に良元が来てはいつも撫子がつまみ出す未染を蹴りあげて床に転がしている。
蹴られた未染は特に怒ることも無く上機嫌で良元の脚を頬擦りし良元も気持ちの悪いものをみる目でまた蹴り上げる、どうやらこの2人には上下関係があるようだ
見れば見るほど話の通りのイカレ野郎という言葉に違和感を覚えるが良元と対象的に隆文は未染が起きていることを察知すると逃げ出してしまう。
あんなにガタイの良い大人がしっぽ巻いて逃げるのだ、良元の方が異常だと思った方がいい。
「そうだ…今日から霊符をこの子に教えて貰いなさい」
脚で未染を押さえ込みながら良元はそう言った。
「え!?」
この変態にしか見えなさそうな人物から霊符を習うなんていくら良元の命でも聞き入れ難いものであり、良元もそれを知ってか口元を袖で隠してはいるが楽しそうに目を細めている。
「未染は態度こそ悪いですが霊符に関しては随一です。」
私は無理ですよと言わんばかりににっこりと微笑み袖から練習用の紙と筆を取り出した。
最初からこの未染という男に教えさせるつもりだったようだ
「教えルのは苦手なンだが?」
「大好きな私からのお仕事は嫌ですか?」
そう言われ未染は押し黙る、しばらくしてガシガシと長い髪を掻きむしった後「わかッた」と渋々了承した。
「ずっと思ってたけど良元さんと未染…サンはどういう…」
「この子が小さい時からの教育係ですよ」
子供の時から良元に教育されているにしてはとんだじゃじゃ馬に育った事だ…と口には出さないがその目が語っていた、良元はニコリと微笑んだまま瞬きひとつせずに首を傾ける。何も言わせないという顔だ
「気色悪ィからさン付けすんな、呼び捨てでいい…どうせ同い年くらいなンだろ?」
「彼は記憶が無いので見た目で判断するなら同じくらいか少し歳上だと思いますよ」
黙っていればその綺麗な顔は幼さが残る女性のような未染は20に行くかどうかの年齢のようだ
良元が子供の頃から教育係と言っていた為少なくとも良元は見た目以上の年齢だと言うことは分かる。
「良元は子供ン時から変わんねェからな…撫子と同じくらいッつうのは分かるンだが」
さっぱりといった感じで肩をしゃくりあげ徐に素っ裸な身体を起こした。
「なんで何時も裸で潜り込むんだよ…」
「ンあ〜……暑いから?」
まだ肌寒い季節なのに暑いととち狂った事を言っている割には何故か青年の布団に潜り込みしがみついてくる矛盾に青年は目が据わる
「人肌あると眠れルだろ?お前は大きな怪我してッから逃げれないシ丁度いい」
「それ結局ここで寝てる人なら誰でも良いって事じゃん……」
こんなに大怪我をしているのは青年くらいで、他はここの布団を使うほど大怪我をした人は居ない。
「未染は人肌が無いと寝れない子なんですよ」
ポンポンと未染の頭を数回叩きながらどこから持ってきたのか分からないが手に持っていた肌着と赤い着物を顔に押し付けた。
寝起きで喉が渇いたのか水を飲む青年の横で良元がしっしっと犬を払うような仕草をしつつ口を開く
「ほら、そんな粗末な物を隠しなさい」
「粗末ッて言うな粗末ッて……」
じーっと下半身を見た後にボソリと「…粗末だけどよォ」と呟いた言葉に青年は飲もうとしていた水を吹きだしたのだった。
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