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────青年が目を覚ますと昨晩助けてもらった人物の後ろ姿があった事に驚きはしたが、布団は一つで夜はまだ肌寒い事も考え無理やり頭を納得させた。
柔らかく何処か女性的な雰囲気も醸し出している良元という男は静かな寝息を立てていて深い眠りについているのか、青年が身動ぎしても起きる気配は無い。
あれから随分と寝ていたようで日はカンカンと照っていて少し暖かくも感じる。
昨日拾われる前を思い出そうとまた思考を巡らせたものの一切覚えておらず逆に何故言葉を覚えているのかさえも不思議と考えてしまった。
何かを考えた所で何も思い出せないなら致し方ないと、昨日言われた水がめの近くを探すと鮒の甘露煮と汁物におひつのなかには雑穀米が入っていた。
鮒の甘露煮を少しかじると強い甘みと米が欲しくなる衝動にかられ頬が上がるのだった。
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彼は中々起きず巳の刻(10時頃)になった所で起きてきた、待ってる間は何もすることがなく行くあても無いためぶらぶらと外に出て周りを見回したりしていた。
眠そうな目を擦りながら外にある共同井戸へ向かい顔を洗ったあと良元は「さてそろそろ行きますかね」といいながらぐいぐいと青年を押し始める
「ちょっと…良元さん……!まだ寝足りないんじゃ…押さないでくれ…!」
「ふふっ、大丈夫ですよ私は四刻も眠れば充分ですから」
と、怒涛のように流されるまま流されそのまま良元が青年を連れ歩きひとつの大きな屋敷の門前へと連れてきた、決して煌びやかでは無いがずっしりとした門構えに青年は関心の息を吐いた。
「凄いですね…」
「ここは私がお世話になっている屋敷でね、私のような『送り人』達の集まる場所です。」
にっこりと青年に微笑みかけた。
「『送り人』?」
ゆったりと門に入りつつぽつりぽつりと良元は話し始めた。
「昨日のことどこまで覚えてますか?」
「…………すみません…全く覚えてなくて……気づいたら良元さんが目の前にいたんです。」
良元はうーんと唸ったあと最初に妖と呼ばれる存在のことを話し始めた。
「───人ならざるこの世ならざる異端の生物が妖と言うのですが、妖自体はそう珍しくもなくて
害が無いものが多いんですけれどもその中で人が妖になる場合も有るんですよ。
人が妖になってしまった状態を私達は『想い人』と呼んでます。」
良元は袖から竹筒を1本取り出した、長さは筆と同じか少し長いくらいであった
「その『想い人』を黄泉へ還すのが送り人なんです。送り人は一人一体ずつは妖の所持をしている事が多く私の子はこの中にいます。」
竹筒の蓋を取るとポンっと空気の抜けた音と共にフワフワとした何かがギュウギュウに押し込まれていたかのように溢れてきたのだ
「これは管狐という小さな妖で力こそ無いですが細かな事は得意なのですよ。」
青年がめを凝らして見てみればその毛玉から狐のような耳が生え大きな瞳をパチリと開いた。
「……ほんとに狐だ……」
「私の仕事は黄泉送りと人を食らい『鬼』の称号を持つ想い人の捜索が主ですね」
管狐をひと撫でし、また竹筒を袖に戻すと名残惜しそうな青年の声が聞こえ良元は口元を袖で隠した。
「その鬼を追いかけていたら貴方が倒れていたのですよ」
木々生い茂る通路を進んでいくと目の前に見えてきたのは広々とした庭園だった。
大きな池に落ちた紅葉が緩やかな流れに任せて漂っている、よくよく見れば池には鮮やかな朱色と白の鯉が悠々と泳いでいるのが見えた
景色に目を奪われている青年を横目に庭園の端で走り回る鮮やかなべべを着た少女が良元に気づき手を振った。
手を振り返すと髪を揺らして駆けてくる
「ん!!」
だんだん顔がはっきりと見えてきた少女は縫い付けられた口の端を上げて良元に抱きついた。
「こら喰姫私があなたの兄君から怒られてしまいます。抱きつくのはお止めなさい」
抱きついていた喰姫と呼ばれた少女の肩を持ち離すと縫われた口元は尖りを作っており、拗ねているのが見て取れた。
「良元さん…この子」
縫われた口元をみて痛そうな顔をする青年をみて安心させるように少女を撫でながら良元は微笑んだ
「この子は喰姫、私の同僚が連れ歩いている想い人です。」
「えっ……想い人ってさっき言ってたあの想い人ですか!?」
恐る恐る目線を合わせて見る青年に喰姫は首を傾げる
「口の縫い目以外普通の女の子にしか見えない…」
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