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「この子は想い人ですが妖として兄君のお手伝いをしているのですよ」
青年が喰姫の頭を撫でようとすると頭が半分に割れ中から鋭い牙を見せながらべろりと手を舐めた
「!!!??ッ」
ばっと手を引っ込め舐められた手を恐る恐る付いているかを確認していた。
「たまに噛み付くので触る時は注意ですよ」
血の気が引く青年の顔をみて良元は満足そうに笑いそれにつられ喰姫も口元を袖で隠して笑う仕草をした。つまり揶揄われたのだ
想い人となるということは人ならざるものになるということは身体が変化するのは当然かと妙に青年は納得していた。
「彼女は二口とも呼ばれていて、送る事が難しい想い人に対しての強行手段として必要な子なのですよ」
小さくため息を吐きながら「出来ればそんな強行手段に手を出したくないのですがね」と良元は続けて言う。
「他にこういう想い人はいるんですか?」
「そうですね…かなり数は少ないですが居ますよ、この子程人に懐く子は居ないですが」
と良元が話していると不意に先程少女が居た場所より少し奥から「鬼被り!!」と言う声が聞こえ、良元がそちらに目を向けると満面の笑みを浮かべる凡そ一般人というよりも取り立て屋のような人物がそこには居た。
取り立て屋のような人物は小走りで駆け寄ってきて良元の髪ををグシャグシャにかき混ぜながら豪快に笑いかける
「珍しいな!!色男の鬼被りが屋敷に来るなんて!!」
どこかげんなりとした雰囲気を醸しながら良元はハエを払うようにその手をどかし、その人物は払われた手を名残惜しそうに一瞥したあと、青年を舐めまわすように見てニヤリと口を歪め小指を立てて良元の方へ身体を向けた
「しかも男まで連れてきてよ!なんだ?これか??まさかお前の方がこれなのか?」
小指を立てたその取り立て屋のような人物の指をにっこりとしながらへし折らんばかりに良元は握りついでにもう片手で耳たぶを下に引っ張った。
「いででででッ」
「お黙りなさい。」
喰姫がトドメと言わんばかりに細脚で脛をけたぐる光景をみて青年は意味が分からずと言ったふうに眉を顰めた。
「もしかして……この人がこの子の兄君??」
「えぇ、喰姫の実の兄隆文です。
取り立て屋のような見た目はしていますが私と同じ送り人ですよ」
ぎゃーぎゃーと騒ぐ姿を見てこの人とは保証は無いが絶対仲良くなれると青年は確信した。
「鬼被りとは……?」
「私のあだ名のようなものですよ、ここではそう呼ばれることが多々あります。」
困ったように笑いながら左目を隠している髪を弄り少し溜息を吐いた。
「あなたも旦那様に用事があるのですか?」
「あぁ、今回の想い人についての詳細が欲しくてな」
ちょうど良かったとばかりに隆文の肩に手を置き懐から小銭を取り出して握らせた。
(賄賂だ……!賄賂が行われてる)
「中に入る時によろしくお願いしますね」
と良元が言えば最初に意味がわかっていなかった隆文は気づいたように「あぁ、そういう」と呟いて青年の肩を乱暴に抱いた。
「坊ちゃんは俺と一緒に行こうな!」
隆文の真似をしようと喰姫は肩に手を置こうとしたが身体が小さいため抱き抱えるように腕にしがみついたのをみて青年は何がなにやら分からず戸惑っていた。
「中に入ったら分かる、良元とは別に入っとけ」
安心させるように隆文は言うともう既に数尺離れた良元の後を追うように歩き始めた。
「坊ちゃんは、なんでまた良元と一緒に居るんだ?」
「あの……俺何も分からなくて…何処から来たのかも」
頭の包帯を触りながらしどろもどろで言うと「記憶しか飛んでないなら幸いだな、普通は頭が飛んでる」とケラケラと笑いだした。
しばらく歩けば細竹に囲まれた大豪邸が見えてきた、開けるのも勇気がいる戸を慣れた手つきで良元は開けると下駄を揃えスタスタと奥に行ってしまう。
青年が追いかけようとすると隆文は腕を掴み「目的地は同じだから大丈夫だ」と言い頭を数回撫でた。
長い長い廊下を進むとざわざわと騒がしい声が聞こえる大きな襖が見えた、良元が襖を開けて中に入ると騒がしかった声がぴたりと止んだ。
良元の服が擦れる音だけが鳴る中次第にボソボソと話し声が聞こえてきた。
「鬼被りだ」
「堂々と歩きやがって」
「何故あんな奴を…」
「何時まで生かしておく気なんだ…」
青年は隆文の袖を掴んで目で訴えるも隆文は諦めろと言いたげに首を振る
耳障りな声が聞こえる中、奥にある鳳凰の絵が描かれた大襖には屈強な男が1人道を塞ぐように座っている
「良元です。旦那様にお目通りを」
繊細な模様が施された翡翠がついた黒簪を袖から少し見せると襖を塞いでいた男がゆっくりと襖を開け中へ入るように顎をしゃくった。
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