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奥の奥までまた通路が続いている。
奥に行くにつれ薄暗くなり恐怖心を煽られ青年は喰姫の手を強く握った。
奥に居たのは山賊のような荒々しさを醸し出す晒しを付けた大柄な女性が煙管から怪しげな煙を纏わせながら肘掛けに凭れていた。
「久しぶりだな良元」
「お久しぶりです。旦那様」
女性に対して旦那様と呼ぶことに酷く違和感を覚え青年は眉を顰めた
「先日調査をしていた件ですが────」
良元が鬼に関する内容とその際に青年を拾ったことを伝えると彼女は近くにいた男を呼び耳元で何か指示を出していた。
「身元は探してみる手がかりがひとつも無い状態だからは期待はするなよ、仮としてこちらで身分を保証するものを渡しておく」
渡された織り布の中には良元が持っているのよりも単調な簪だった。
「鬼の匂いがついているなら鬼の専門家であるお前が面倒を見ろ良元、その為の資金はくれてやる」
「はい。」
煙管をふかすと青年にこっちに来いとばかりに中指で誘う、青年が隆文を見ると「いけいけ」と小声で言われそそくさと彼女の前に立った。
「撫子(なでしこ)だ、名前で呼ぶな。お前も旦那様か頭(かしら)と呼べ」
「は、はい」
有無を言わせないといった目つきで睨まれると青年は顔を青くして背中にじわりと広がる冷や汗を感じ取った、撫子は青年の袖を乱雑に持つとじっくりと着物の生地を見る
「これは見つけた時から着てたのか?」
「えぇ」
青年は分からないため良元が代わりに答えた。
「すこしばかり古いがいい着物だ」
しばらく触ったあと「もう下がっていい」という撫子の言葉で青年は良元の近くへ移動した。
「そうだ…坊や、ここにいる時は良いがまだ実力も無いうちに屋敷内で良元に近づく事はよした方がいい」
「…なぜですか?」
先程もそうだったと青年は思い浮かべ怪訝な顔つきをして聞き返す。
「私を鬼だと思っている上の人間から目をつけられないためです。」
髪を触りながら良元は心底面倒くさそうに言う
「良元さんを鬼だと思ってる…??」
「私には鬼特有の角がありますから」
良元は髪で隠れた左側をかき分けると閉じられた目の上には小さな黒い角が生えていた。
「私の左目には鬼の肉片が入っているのでそれに連なって額に角が生えているのですよ。」
左目を開けるとその中には瞳が2つ入っており目を開くと同時に角が苗木が成長するかのように細く上に伸びた。
唖然とその光景を見ていた青年はある疑問を抱いた
「…その角って収納式なんですか…?」
「……えぇ…鬼の力を抑えている時はさっきの状態になります。」
怯えられると思っていた良元は青年の的外れの質問に口を開けたまま気の抜けた返事をした。
伸びた角を興味深く観察した後に名残惜しそうに青年は隆文の近くへとしぶしぶ戻る
「なら仕方ないですね…ここに居る時は隆文さんや他の人と一緒に居ることにします。」
青年は自分が無知で足枷でしか無いことをよく理解しているが為に心の中で良元の手伝いが出来るまでは条件を呑むことにしたのだ。
「それで隆文、お前は何用だ?」
「矢頭峠で想い人が確認されていて、見た目が僧のようだと話を聞いたんだ、そこら辺に該当する僧はいるのかどうかを聞きに来た。」
撫子は少し目線を上にして思い出す仕草をするとまた近くの男を呼び分厚く重なった古い書物を持ってこさせた。
適当に開けた後数枚めくるとめくっていた手は止まり隆文を見た
「矢頭峠の麓には3つの寺がある、その中で長野と言う男は近頃顔を出していないと言う話だ」
「それだけ分かれば十分だ…感謝する」
隆文はサッと和紙に書き留めヒラヒラと風を当てて乾かす。
「良元、お前はついて行ってあげなさい」
「しかし旦那様……私の追っている鬼はまだ捕まえてはいないのですが…」
困ったように眉尻を下げながら言うと「もう所在が分かっているのなら後は荒れくれ者にさせる」と灰を灰入れに入れながら言うと良元の脳内には撫子の実の息子である未染のにひる顔が浮かび眉を顰めた。
「アレはたまに首輪を外さないと問題ばかり起こす。鬼狩りはアレの狂気を抑えるのに丁度いいんだ」
「そういうことでしたらお願い致します。今回の想い人の送りですが…あの子は…」
「必要最低限だけ覚えさせて連れて行ってあげるといい、ここの連中と違って実践で覚えれば覚えも早いだろう」
遠回しにここの連中は覚えが悪いと言っているのが分かり良元は口角の上がった口元を隠すように袖を口に当て目を伏せた。
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