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青頭巾
トントンと戸を叩く音がする
あたりは静まり強い風の音だけが響いていた。
「来ましたね」
予め外に待機していた良元は呪符を1枚だけ手に持ちその人物の横へ立つとある事に気づいたのか呪符を懐に入れてしまった。
「どうした…?」
隆文が妙な様子の良元を心配して駆け寄ってきたが良元は少し考え、手を横に薙った
「おい!!」
手は人物に当たらず煙のように揺らいではまた元の姿に戻る光景を見て隆文は腑抜けた声を上げた
「残穢ですね……奥様が言うには店主が伏せる前までは実態のある想い人だと思っていたのですが…」
「よく残穢って分かったな…俺でも分からないくらいの強い念だぞ?これぞ鬼被りの技ってやつか?」
冗談を言う隆文を人を殺さんとばかりに睨みつけると懐から白い手ぬぐいを出してひらひらとはためかせた
「今は居ないとなればやはり寺に帰ったのでしょうが……今も尚ここにこれだけの念がある残穢を残すという事は相当後悔をしている」
隠れていた青年に向けておいでと促すと恐る恐る近づいてくる、怯えた手を持ちその残穢に当てるとまた残穢は煙のように揺らめいた
「これは残穢と言って残り香の様なものです。
実態も実害もなくただそこに居るだけのものです。」
「彼はずっといるの?」
「後悔の念が収まるかこれを残した想い人が送られると消えます。
ここまではっきりと実物のように見せているのはとても珍しいので覚えておいてください。」
百聞は一見にしかずと言う言葉がある通りこの残穢は青年の学びに関しての大切な第一歩になるに違いないと笑みを浮かべた。
「どうする?このまま寺に行くか?」
「…そうですね、鬼へと変化しているかは分かりませんがこのまま放っておいたら大変な事になるでしょう、直ぐにでも送るべきかと」
力強く頷くと情報をもとに目星を着いているのだろう寺の方向へ歩き始めた。
「奥方が言うには長野というあの僧は慈悲深くて親のいない子供を受け入れていたらしい、薬はよく買いに来てたっつう話だがあのガラガラ声と顔じゃ誰だか分からなかっただろうな…」
「つまり寺には子供がまだ残っている可能性があり、それが心残りで想い人になったと…?」
隆文は頷くと視線を前に戻し顎を前にしゃくった。
どこか威圧を感じる赴きの寺が見えてきた、真夜中だが月が出ており思いの外夜道は見やすいものの昔は手入れをしてあったであろう道は廃れていた。
「…昨日一昨日の話じゃなさそうだな」
朽ちた鳥居を撫でる、朱色は色あせ白蟻が食い散らかした跡がある
「想い人が出現する以前からここは朽ちてしまったようですね…」
建付けの悪い戸を開け中に入ると廊下は埃まみれで誰かが歩いた形跡はない。
良元と隆文は顔を見合わせ軋む床を進む、中は屋敷よりかは広くは無いが1人で掃除するには大変な部屋の量である。
「隆文、これを」
良元が指さしたのは屏風に飛び散る血の跡だった
「こりゃ何かあったな…」
「位置が低い…この血痕は恐らく子供かと」
嫌な予感がひしひしと伝わり隆文は喰姫に青年の護りをするように言おうと喰姫達の方をみるとある事に気づいた。
「良元……坊主がいねぇ…」
喰姫も青年を探すように辺りを見回すが霧のように消えてしまった青年は見つからない
「彼は鬼の匂いがついています。彼を狙ったという事は匂いのつけた鬼よりも手強かもしれません…」
「坊主の事ずっと味見してたから匂いは分かるな?探してくれ!」
「ん!」
落ち着いた様子の良元を尻目に隆文は喰姫に青年を探すように指示を出すと黒く艶やかな髪が湧き出るように伸び、まるで生きた蛇のように方々にその髪を伸ばした。
「お前達これを…」
良元は懐から管を数本取り出し中の管狐に4枚の符を咥えさせ管狐は四方へ符を咥えたまま飛び去ってしまった。
「陣を張って逃がさないようにしておきます。」
袖から赤黒い符を取り出し数滴血を垂らすと符が膨れ次第に狗のような見た目になっていき、良元の鬼目と目を合わせると狗は何かを探すように走り出した。
「さて、私達も探しますか」
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