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──と、平間の思考が強制的に遮られた。
それまで柔らかだった足裏の土の感触が、そのときだけ部分的に固くなったのだ。平間は咄嗟に一歩後退し、足元に視線を落とした。ざわざわと生い茂る雑草が風に煽られ隠れ、何があったのかすぐには判然としなかった。逡巡はしたものの、心が整理を付けるよりも早く手が伸びた。どうやら薄い板が落ちていたようである。
「……あ?」呆けた声が出た。
持ち上げたそれは、無骨なカバーを着たスマートフォンだった。保護フィルムの貼られた真っ黒な画面に、稲妻にも似た罅が走っていた。無論、平間が踏んで割ったわけではない。元からこうだったのだ。
なぜスマホが落ちているのか、という疑問はさておいて、平間の意識は全く別の方向へ転がっていた。スマートフォンのフォルムに見覚えがあったからだった。
「……昇也」
間違いない。昇也のスマホだ。平間の心臓がドクンと大きく跳ねて、その振動が腕から指先に伝わった。うっかり取り落としそうにさえなった。平間は手に力を込める。額から粘着質な汗が流れた。
「なんで、こんな」
考えるべきことは多くあるはずだが、どこにも足掛かりがなく、ただ空を切るだけの虚しさが胸を満たした。思考はホワイトアウトしたままで、瞳がぶるぶると動くばかりである。
平間は自分を落ち着かせるための言葉を喉から絞り落とそうとして、しかし声帯がスライサーにでもなったのか、意味のあるモノは紡げなかった。
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