2人が本棚に入れています
本棚に追加
悪路と呼ぶには整地され、整地と呼ぶには放置された山道をしばらく進むと、例えるなら景観の最悪な展望台のようなスペースに出た。近くには風雨に晒されすっかり褪色したトタン小屋があった。
平間は適当な場所に車を停め、エンジンを切ってから降りた。すぐに戻って来るだろうとエンジンキーは刺したままにしておく。開け放った扉から車内に溜まっていた空気が一斉に吐かれ、同時に、刷新された自然の香りが肺に流れ込んできた。平間は二、三度深呼吸を行った。
それから、濃い緑と薄い紅と灰色で視界彩度の占められる周囲を見渡した。カーナビの調子の悪さから薄々察していたことだが、どうやら電波が悪いらしい。仕方のないことだが、次に自分が何をすべきかは事細かに頭に入れてあった。
「あれか」
誰にともなく独りごちて、平間はもうすっかり山の一部になったような脇道もとい石階段を発見した。昇也はここを上がった先で命を奪われたのである。すると、とうに鈍麻していたと思っていた緊張が俄かに首をもたげた。平間は降りた四駆車を一度振り返ってから、改めて前方の薮を見遣った。
そうして、一歩、草を踏み締めて段差に足をかける。予想通りというべきか、これといって感慨や世界に変化が起きるわけではなかった。平間は無意識と好奇をブレンドした足取りで上がって行った。
最初のコメントを投稿しよう!