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ネットで簡単に調べただけの装備に身を包み、横から手を伸ばすように茂る草を掻き分ける。彼らが放つ青い香りが鼻腔を刺激した。時おり吹き付ける風は爽快さよりも寧ろ不気味な気配を孕んでいた。
平間は苦笑を漏らす。
アイツがここを登山すると決めた理由は、漠然としているが納得できていた。高校時代から昇也には、悪い意味で子供っぽい興味を示す危なっかしさが付き纏っていたのだ。
「──んー、なんていうか、行きたくなるんだよな。多分、他人より好奇心を行動に移すまでの段取りが短いんだと思う」
というのが昇也の言だ。実際、登山部に所属していたアイツは登ると決めた山には果敢に挑み、また、成功失敗の如何に関わらず経験値を積むことに邁進していた。
「足の軽いお前が羨ましいよ」
「皓太は運動しないもんな。結構、綺麗なもんだぜ? 山の景色ってのは」
「別に山の景色なんて興味無いからな」
「勿体無いなあ。テストで良い点取るよりも爽快なのに」
高校生の頃から何度か昇也からは誘いを受けていたものの、結局乗ることはなかった。悔やみはあるが、心を締め付けられるほどではない。それは単純に、平間の中で山に対する興味が相変わらず皆無だったことの証左だった。これが来る日に向けてせっせと登山準備に着手していた場合、抱く感慨も違っただろうが。
とはいえ、昇也の瞳が映した景観がどうであったのか、平間が知らないというわけではなかった。
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