最後の呟き

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『しょう:これ、いま登ってる山の景色! すごいっしょ。』 『しょう:ほら、標高が高いから群生してる植物も違う。』 『しょう:もうすぐ頂上! 風景、楽しみにしとけよ。』  というように。過去、昇也から立て続けに送られてくるメッセージを、平間は口の開いた郵便ポストのように受信していた。アイツはスマホを使ってあちこちの現実を切り取っては、各SNSで拡散することを登山の醍醐味にもしていた。凄い労力だったと思う。多分、昇也とメッセージアドレスを交換するだけの仲だったクラスメイトには、漏れなくリアルタイムの登山活動が送られていたことだろう。  だからこそ、最期の登山について平間は訝ったのだ。 『ひらま:事故るなよ。』いつか平間は心配してやったことがある。 『しょう:大丈夫だって。写真撮るときも十分気を付けてるし、俺の本分は登ることだからな。もしものときは俺の遺志を継いでくれ。なんて。』  ふと、平間は立ち止まった。ちょろちょろと、閉め忘れた蛇口の水が跳ねるような音が鼓膜を打ったのである。なんてことはない。近くに小さな滝があるのだ。ちょうどそこは木々の切れ間で滝の姿こそ目視できなかったが、間断なく続く水音が癒しを与えてくれた。アイツが落下したという事実に目を瞑れば、ではあるが。  とまれ平間は、思っていた以上に疲労を溜めていたのだと気付いた。あるいはこの先に建つ廃屋からどろりと漏れた(けが)れが体の芯に染み付いて、体力を次第に蝕んでいたのかもしれなかった。
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