最後の呟き

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 一分にも満たない時間を休息に割いてから、平間は視線を階段の先へ投げた。すると視界を覆う繁茂した緑のスクリーンに、なぜかネットで踊っていた扇状的な文字の羅列が炙り出しのように映り始めた。 【夜逃げか? 忽然と姿を消した、加害者一家。報われぬ遺族の念と怒る世間。  三ヶ月前に発生し、世間を震撼とさせた児童連続殺人。半月前に犯人である少年Aは塀の中へ送り込まれたが、それで恐怖の余韻が消えたわけではなかった。少年Aの家庭環境は──(中略)──我々は一刻も早く遺族への謝罪を要求する為、今後も、消えた一家の行方を追う。】  最後の石段を超えると、平間を歓迎するかのように冷たい風が頬を打った。  やめとけよ、と、昇也に放った言葉が数週間ぶりに返ってきた。いわゆる受取人が故人のため返送します、というやつだ。平間は手元に戻ったそれを捨てることができなかった。あの日の昇也のように、誰かに忠告される立場にいると自覚したからだった。  やめとけよ、死ぬぞ。
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