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先生が呼ぶ声すら聞こえなかった。
ただひたすら廊下を走る。内履きのまま外に出て校庭を走った。
暖かい風が吹く校庭に悠々と花を咲かせている八重桜の木を思いっきり殴った。
何回も、何回も。
「あああっっ……」
涙が頬を伝う。声にならない嗚咽を吐きながら何回も殴る。白い手が切れて血を流れるが辞めずに殴り続けた。やがて力尽きてその場に崩れ落ちた。
「なんで……なんでぇ…勝手にいなくなるの……なんで……」
泣き崩れる累の頭上にハラハラと桜が零れる。
「亮太……ううっ……りょう…たぁ……っ」
彼と出会ったこの場所で、告白されたこの場所で、夢を見たこの場所が、二人を結んだこの場所が──
今は憎くて仕方ない。
彼と出会った春が彼を失った春が
呑気に咲き乱れる桜が大嫌いだ。
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