blinded

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グランドの端にあるブロック塀を背にして小柄な女性教員が澤村に牛刀を突き付けられて、その脇に抱えられている。 あれからどれくらいの時間が流れたか分からない。 澤村の前には大人数の機動隊が銃と盾を構えている。 冬を前にした秋の乾いた風が爽やかに吹きすさぶ晴天の中硬直状態が続いている。 「お父さん、お母さん、それと皆んな、本当にありがとう。今日は本当に楽しかった。僕に関わった全ての人に、ありがとうと。なんも聞こえないな…。機動隊が何か言ってるけどなんか聞こえないや。あぁでも気持ち良いな。何にも聞こえないし、やけに風が気持ち良い。静かだな…。静かだよ…。さぁ、最後の仕上げだな。でもさ、もう少しだけ僕の世界が広く見えてれば何か変わってたのかなって思うと…少し残念だね…。もっともっと楽しめたかもしれないんだけど…。世界はここだけじゃなかった。生きれる場所はここだけじゃなかった。もう少しだけ、もう少しだけ早くあの電車から見える風景をちゃんと見る事ができたらな…もしかしたら…いや、もういいだろ。僕は十分楽しんだ。十分楽しんだ。そうだろ?皆んな、ありがとう。お母さん、爺ちゃん、ちゃんとお礼言えたし、お返しもしたよ?さぁ行こうか。」 澤村は女性教員を地面へ投げ捨てると、牛刀を振り上げて機動隊へと突撃した。 澤村の視界の色が消えていく。 セピア色からやがてモノクロームとなり、凄まじい数の銃声がグランドに響くとやがてその視界は暗闇になった。 秋の空だけが何も変わらずその惨劇を見下ろしていた。 優しさは優しさでしか返事はできない 異質なものは異質なものでしか理解できない そして血で血は洗えない 気付けない視界は盲目と同じこと もう少しだけ その世界が広ければ 救われた命はどれほどあっただろう それでも時は過ぎる それでも何も変わらない 自分が描いた景色だけが 自分の色であり 自分の世界だ そこが墓場か そこが舞台か 私は今日もその違う色へと 祈りを捧げる ブラインデッド 〜完〜
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