桜風花

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 ああ、そうだ。そら振られるわ。  いつまで待っても来ない彼氏なんか振って当然だっつうの。  ごめんな、夏帆。  あれからずっと泣かせてばかりだった。  腕を組んで参列者に挨拶をし始めた二人。  歩き出そうとした卓也が、動かない夏帆に気づき足を止める。  空に舞う桜の花びらに、視点を定めた夏帆は、にらみつけるような顔をして唇をかんだ。  夏帆、そんな顔しないで歩け! 卓也と一緒に。  もうオレは見守らない。  夏帆が笑って幸せになる日までと決めていたんだ。  夏帆の笑顔が大好きだった。  なのに、あれからずっと曇らせてばかりでごめんな。  夏帆の笑顔を取り戻してくれた卓也は、最高の男だと思う。  もう大丈夫だよな、夏帆。  祝福の声をかけることもできないダメな元カレでごめん。  代りと言ってはなんだけど、これが最後。  届け、届け、届け、世界中の誰よりも幸せになってほしい!  ありったけの想いは桜の花びらとなり、二人に降り注ぐ。  季節外れの雪が混じったのは本当にごめん。  オレの嬉し泣きのせいだ。  その桜の多さと雪に驚いたように空を見上げた夏帆は。  風花に気づいて一瞬だけ泣き出しそうな顔をして、それから懐かしそうに目を細め微笑むと、唇だけを動かした。 『ありがとう、松岡くん』 ――おめでとう、夏帆。
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