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「え?  ちょ・・・」 リトとレイアは目の前で起きていることが理解できない。 「魔王、アンタへのみやげだ」 「ジェ、ジェミニっ!!?」 盗賊は勇者たちに向かってくるりと振り返った。 「リトよ。魔王がいる世の中ってのも悪くないぜ。上手く立ち回れるかどうかだ」 魔王がアゴで合図を送ると、側近のドロゥズが足元に落ちたカギを拾い上げた。 「みやげはそのカギじゃないぜ」 そう言うとジェミニはさらに魔王へ近づきながらリトとレイアを指さした。 「アンタにとって目障りだろう? あいつらがみやげ代わりだ」 魔王は鼻で笑った後、アゴを手でこすりながらジェミニに問いかけた。 「何が望みだ?」 ジェミニは「王の間」を端から端までぐるりと眺め、 「いろいろ財宝があって目移りしちまうが・・・」 魔王に向き直って答えた。 「魔王軍の勲章を拝領したいね」 魔王の勲章、言わばお墨付きである。 一介の盗賊には立ち入ることができない場所もこれがあれば話が違ってくるのだ。普通では聞けない情報も手に入るだろう。今後の人生の立ち回りが相当有利になるというワケだ。 「ほう、勲章か。  それなら今すぐくれてやろう」 魔王が左腕を軽く振ると、ジェミニの近くにあった地面の裂け目から噴き出したマグマがにゅるりとヘビのように形を変え、そのままジェミニに襲い掛かった。 「うわっ! あっぶねぇっ!!」 とっさに身をひるがえしてヘビをかわし、魔王から遠ざかった。 「どうした、勲章が欲しいのではなかったか?  仲間を売るような下衆には焼き印の勲章が似合うだろう」 「くっ・・・」 魔王軍にとって使える人間であることを示せば、少なくとも殺されることはないと踏んでいたのだが、当てが外れてしまった。 「勇者とやら。せっかくここまで来たのだ、  お前らにも勲章をやろうか」 魔王が両手を動かすと、いたるところにある地面の裂け目からマグマのヘビが生まれ、リトとレイアに襲いかかった」 「うおーっ! マジかよっ!?」 「きゃーーっ!!!」 レイアは冷気魔法で身を守ることができたが、勇者リトは反射神経をフル回転して避け続けるしかない。 「ちょ、あ、やべっ!!!」 床に転がる小石で足をすべらせたリトがマグマを浴びそうになった瞬間、腰のポケットから一匹のナマコが飛び出した。 「キュピーーーーーっ!!!」 ナマコの全身から勢いよく噴き出した水はマグマを細長い石の塊に変え、塊はそのままリトの頭上に落下した。 「痛っ! 熱っ!」 水で冷やされたとはいえ、マグマの塊は熱いままだ。しかしそれを手で払いのけられるならだいぶマシである。 「ナ、ナマコっち!!」 「キュピっ!」 以前、勇者一行が何の脈絡もなく海水浴に出かけたことがあった。 アニメのストーリー中盤に放送されることの多い、いわゆる「水着回」である。 そのときなんやかんやでペットとして連れ帰ることになったのが このナマコの「ナマコっち」なのであった。 「キュッピピーー!!」 「しゅばばばばっっっっ!!!!」 ナマコっちの全身から噴き出す海水は尽きることがなかった。やがて「王の間」にあるすべてのマグマの裂け目を冷やし固めてしまった。 「ナマコっち! ナイスっ!」 勇者リトの手のひらでナマコがピチピチと喜びを表現している。 「ありがとねっ! ナマコっち!」 礼を言いながら走り出した魔法使いレイアはまっすぐに「妖精の剣」の宝箱に向かいながらローブの袖元に手を突っ込んだ。そして取り出したカギを宝箱の鍵穴に差し込んだ。 「あっ、えっ?」 目を丸くしたのは盗賊ジェミニだ。 「騙しやがったのか!?」 「盗賊なんて職業の人間を信用するワケないでしょ!」 まあ、それをいったらおしまいであるが、魔法使いだってバカではないのだ。魔法でコピーを作成するくらいの用心深さは持ち合わせている。 「ガチャガチャ・・・」 「あれ・・?」 いくら力をいれてもカギが回ってくれない。 「何、これ?」 「そいつはニセモノだっ!」 開けっ放しの「王の間」の扉の向こうから アラフォーのおっさんの首がにゅうっと出てきた。
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