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3.
「誰っ?」
レイアは眉をひそめておっさんに問いかけた。
「トゥールズ王国特務機関のジャッジ大佐だ」
「何なの? ニセモノって・・・」
「こほん、説明させてもらおう」
背筋をピンと伸ばし、腰に手を当てながらゆっくりと入室したジャッジは「妖精の剣」の宝場を指さして決めポーズをとった。
「それは罠だ」
「わ、罠?」
勇者リトはナマコっちを手に載せたまま口をポカンと開けて固まっている。
「箱を開けた瞬間、魂を奪い取る呪いがかかるのだ!」
「のろ・・・
ひっ!?」
魔法使いレイアはカギを回していた手を思わずひっこめた。
「本当かよ?」
盗賊ジェミニは 自分の得た情報が不完全であったことへの不満をにじませていた。
「特務機関の調査だ、間違いない」
「調査はいいが、特務機関てのはカギのすり替えまでやるのか? 」
ジャッジ大佐に食って掛かるジェミニ。突然現れていいとこ取りをされては面白くないのだ。
「ちょうど水着に着替えたところをこっそりとな」
「・・・
あーーーー!!!!」
次はレイアが大声を上げた。
「海の家のおじさん!!?」
「ああ、すべて特務機関の任務の上でだ」
例の「水着回」の裏でおっさんが女性の着衣に手を出していたということだ。任務でもなければただの犯罪である。
「ふむ、事情はよくわからんが」
石の玉座からゆっくりと身を起こした魔王は首の骨をボキボキと鳴らし始めた。
「死体が3人から4人に増えるだけだ」
「魔王、少し説明させてくれ」
ジャッジは魔王を制するように腕を伸ばして続けた。
「えーーーと、、、
人間の女は水着の中にパッドというものを入れておるのだが」
「ちょっと!! おじさんっ!!」
レイアが最強魔法でジャッジの息の根を止めようとした瞬間、「王の間」の入り口からひとりの兵士が飛び込んできた。
「大佐っ!」
「遅いじゃないかっ!」
「実は・・・」
兵士の報告を受けたジャッジの顔つきが変わった。
「何? 見つからんだと・・・?」
ジャッジが硬直したままゆっくりとその首を魔王に向けたところでその横にいる魔導士ドロゥズが口を開いた。
「私が説明しましょうか」
王に向かって軽く頭を下げると、玉座の前の階段をゆっくりと下りながらドロゥズは「妖精の剣」の宝箱を指さした。
「あの宝箱にはたしかに魂を奪う魔法をかけていました。海のおじさんの調査の通りです」
「特務機関な」
ドロゥズは魔王へ振り返って続けた。
「肝心の「妖精の剣」はこの城の地下の宝物庫にある。これも彼らは調べ上げていたのでしょう。
しかし、別動隊の兵士が捜索した結果見つからなかった」
ゆっくりと勇者リトへと近づきながらドロゥズは最後の真相を告げた。
「「妖精の剣」は一体どこにあるのか?」
「ばさっ!!」
ドロゥズは魔導士のローブのひもをほどき、それを脱いで空中に放り投げた。
「ガシャンっ!」
「オレがその「妖精の剣」だ!!」
地面に落ちた輝く宝剣は顔のついたしゃべる剣であったのだ。
「おい! 勇者! オレを拾えっ!!」
「はっ!!」
ずっと口を開けたままだった勇者リトは それをふさぐ間もなくとっさに剣に手をかけた。
「しばらくは地下室で勇者が来るのを待ってたんだがなっ」
勇者に拾い上げられた「妖精の剣」は その身の上話を続けた。
「いくら待っても誰も来ねえんでな。外で待つことにしたんだ」
魔導士ドロゥズは「妖精の剣」の妖精モードの姿であったのだ。
「貴様、、、長きに渡りこの王を騙していたというワケか!」
怒りに震える魔王ゼフォーヌは自身の最大級の魔法を唱え始めた。
「いくぜっ! あんなのもう敵じゃねえっ!」
「おうっ!」
勇者リトは「妖精の剣」の放つオーラに包まれながらまっすぐ魔王の元へ駆け寄った。
「獄炎魔法メギドルネーゾム!!!」
「ゴゴガガアアァァ・・・!!!」
魔王ゼフォーヌの身体が液体のマグマとなり、それはやがて竜巻のような渦となって勇者リトを飲み込んだ。
「うわっ!!!」
「大丈夫だ! オレが守る!」
「妖精の剣」のオーラでマグマの熱はちょっと熱めの温泉くらいにしか感じない。
完全にマグマに飲み込まれた勇者リトは頭上にぼんやりと光を放つ部位があるのを見つけた。
「アレがコアだっ!」
「よっしゃあっ!!!」
「シュパッ !!」
マグマの竜巻はその回転を止め、黒い粘土のようにぼとりと地面に落ちて石の山となった。
「プニーーーっ!!」
魔法使いレイアの手のひらの上でナマコっちが海水を噴き出し、マグマの塊を冷やした。もうもうと湯気が立ち込める。
「ごほっごほっ」
湯気の向こうから咳き込む勇者リトが姿を現し、「妖精の剣」をまっすぐ天へと掲げた。
「やったわね!!!」
駆け寄ってリトを抱きしめるレイア。
「やった!!
やりましたよ!!!
ネプチューン様!!!」
「・・・は?」
レイアは思わずのけ反り、リトの顔を両手で挟んで自分に向けた。
「痛てててて」
「よくやった、勇者よ」
「王の間」の入り口からひょっこりと首だけ出したひげ面の老人はその頭に王冠を載せていた。
おそらく彼がネプチューン様であろう。
「ようやく海の民が地上を支配するときが訪れたというワケじゃの」
「どういうこと これ?
最初から騙してたってこと!!?」
リトの顔をはさむ両手に渾身の力をこめてレイアが問いただす。
「ふぃ、ふぃがいます(違います)!!
リトって人は今頃海の底のオリに入ってもらってて」
「入れ替わったっていうの!?
いつからよっ!」
「リトさんが、海の家の更衣室をのぞこうとしてたのを後ろから・・・」
「あーーー、もうっ!
水着回 絶滅しろっ!!!!!!」
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